『忘れる技術―思い出したくない過去を乗り越える11の方法』2006/10
岡野 憲一郎 (著)

「忘れられない記憶」のメカニズムを脳と心の両面から解き明かすとともに、思い出したくない過去を乗り越える11の方法を教えてくれる本です。
人は誰でも、「忘れられないほど嫌な記憶」をいくつか抱えて生きているのではないでしょうか。最近はあまりストレスを抱え込まなくなってきているので、「嫌な記憶」に悩まされることも少なくなっていますが、私自身にも「嫌な記憶」がいくつかあります。幸い、深刻な「心的外傷」になるほどの「嫌な記憶」ではありませんが、「忘れられない記憶」でもあります。
さて、この本では、精神科医の岡野さんが、具体的事例とともに「忘れられない記憶」にはどんなものがあるか、何故忘れることが出来ないのかを、脳と心の両面から解き明かしてくれます。その上で、次のような「思い出したくない過去を乗り越える11の方法」を教えてくれます。
1)忘れたい刺激を遠ざける
2)怒りやフラストレーションを何かにぶつける
3)賠償を要求する、訴える
4)人に話す(カウンセリングを受ける)
5)相手について知る(理解し、許す)
6)新しい世界に踏みだす
7)与える人生を歩む
8)薬物療法を試みる
9)思考制止術を用いる
10)バランスシートを用いる
11)名人に学ぶ

ここでは項目だけを列挙しましたが、具体的な方法を知りたい方は、ぜひ本を読んでみてください。
ご参考までに私自身の実践している「忘れる方法」としては、まず上記の項目のうちの「1)忘れたい刺激を遠ざける」を行います(嫌な人との接触を可能な限り避ける・心理的距離を置くなど)。そしてたまに「2)怒りをぶつける」として、誰もいない部屋で思いっきり悪口を言います。怒りを抑え込んでいるだけでは、怒りは心の内側で静かに腐っていき、しだいに増幅されてしまうので、吐き出すことが大事だからです。
さらに「9)思考制止術を用いる」に似た方法の「合理的に考える」で、「これを嫌だと思っているだけで何になるのか? すでに起きてしまった過去を変えられるのか?」と自問します。そして怒りが自分を傷つけているだけだと感じたら、怒りのパワーを利用して何か別のことをします。といっても「怒り」が存在している間は、あまり難しいことは出来ないので、頭よりは体を使ってできることにパワーを注ぎます。お勧めなのは「身の回りの掃除」。何も考えずに没頭できますし、見た目がスッキリしてくると心もスッキリしてくる気がします。嫌な記憶を抱えたまま何もしないでいると、頭の中で「嫌な記憶」だけがぐるぐるリピートしてしまい、ロクな結果にならないと思います。何か他のことをするという意味で、「6)新しい世界に踏みだす」も、とても効果的だと思います。
忘れる技術の最後の項目「11)名人に学ぶ」では、高額のニセモノをつかまされた骨董商の中島さんの事例が紹介されていて、とても参考になりました。誰も傷つかない、とても賢い反撃(?)の仕方だと思います。
実は「反撃しないかぎり攻撃するいじめ心理」というものがあるそうで、「いじめ」にあった時は、「謝罪しつづける」よりも「反撃」した方がいい場合もあるそうです。岡野さんは次のように言っています。
「要は引けば人は押してくる、謝りつづけると相手はもっと謝罪を要求する、被害者が受け身でくよくよした態度を示すと、もっと危害を加えられかねないだろうということです。」
……確かに。いろんな意味で、反撃できるほど「自分自身が強くなる」ことが大事だと思います。そして誰も傷つかない反撃が出来るなら、それが一番いいのでしょう。
「忘れられない記憶」は、それを与えた相手ではなく、むしろそれを「覚えている人」の方を傷つけるものです。だから「忘れる技術」を身につけることは、自分の心を護るとても良い方法だと思います。でも「心的外傷」がまさに心をズキズキ傷つけている時には、そんなに合理的に考えられないとも感じます。そういう時は、「忘れられない記憶」を無理に忘れようとはせずに、カウンセリングを受けるなどして、自分の「忘れられない記憶」を誰かに話してアドバイスを受けてみる方がいいかもしれません。
「忘れられない記憶」がある方は、ぜひ一度、読んでみてください。