『はい、チーズ』2014/7/25
カート ヴォネガット (著), 大森 望 (翻訳)

「耳の中の親友(奇妙な新発明をめぐる家族の話)」、「ヒポクリッツ・ジャンクション(防風窓のセールスマンが訪ねた家は……)」、「ナイス・リトル・ピープル(極小サイズの宇宙人との出会い)」など、ヴォネガットさんの珠玉の短編14篇。
没後に初公開された未発表原稿集のうちの一冊で、SF風あり、サスペンスあり、ホラーありとバラエティ豊かな作品が収録されています。ヴォネガットさん30代の頃の1950年代のアメリカの物語という古い作品で、しかも「没後に初公開された未発表原稿」ばかりだというので、正直あまり期待していなかったのですが(汗)、数作収録されているSFですら時代をあまり感じさせない佳作ぞろいで、どうしてこれを発表せずに残していたんだろう?と不思議に思うほどでした。
今回のは、サスペンスやホラー、皮肉な結末になる作品も多くて、心温まる作品ばかりではありませんが、まっとうな正義感の持ち主のヴォネガットさんの作品らしく、皮肉な結末にしても「筋は通っていた」のかも……と思わされる作品だったと思います。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
最初のSF風作品「耳の中の親友」は、むしろ2017年の今の方がずっとリアルに楽しめそう。「耳の中の親友」とは、夫が開発したイヤホン型の「話し相手になってくれる機械」なのですが、これ……なんだか現代のスマホ搭載のAIキャラみたい。というか……スマホ搭載のAIキャラがこんな風に育たないことを祈りたいと切実に思いました。「自己啓発」本が好きな人にとっては、じわじわ怖くなってくる作品です……(涙)。
個人的に一番好きだったのは、「この宇宙の王と女王」。お金持ちの善良なカップルが遭遇する事件……はらはらする展開でしたが、最後は……心が温かくなります。
そして最後の「説明上手」は、すごく皮肉な結末に終わってしまうので、どうしてこの短編を最後にしたのかな?と正直言って驚きましたが、たぶん「編集者(?)の企み」なのでしょう。これはヴォネガットさん没後の短編集で、これを読む人はかなりのヴォネガット・ファンだと想像され、すると「ヴォネガットさん=正義感の強い人」「良かったなーオチへの期待」という図式が出来上がっている確率が高いので、その先入観の斜め上を行ってみたのでしょう。読み終わった直後は、「この宇宙の王と女王」で締めくくるべきじゃなかったのかなーと感じてしまいましたが、よく考えると、やっぱり「説明上手」で良かったのだと思います。「説明上手」なら、きっと、この事態も、あの事態もうまく切り抜けられるのでしょう……か?(ザマミロって気もします)