『代替医療のトリック』2010/1
サイモン シン (著), エツァート エルンスト (著), & 3 その他

鍼、ホメオパシーなどの「代替医療」を科学的に評価した本です。なお、本書では「代替医療」の定義は「主流派の医師の大半が受け入れていない治療法」で、ホメオパシー、鍼、カイロプラクティック、ハーブ療法のほか、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、結腸洗浄、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、伝統中国医学、ヒル療法、マグネットセラピー等々がこれに含まれます。
さて、本書では、「科学的根拠にもとづく医療」という考えに沿って、代替医療が検証されていきます。「科学的根拠にもとづく医療」とは、得られる限りもっとも確かな根拠(科学的臨床試験や研究、統計など)にもとづいて最善の治療法を選ぶということだそうです。
……現代では、当然のことのように思えますが、歴史的には「治療」目的で、むしろ人体には有害となる医療行為が数々行われてきました。例えば1799年に亡くなった前大統領のワシントンさんは、瀉血という医療行為のために血を抜かれすぎて死んだそうです。
また、イギリス海軍では壊血病で死ぬ兵隊があまりにも多く、それを憂慮した海軍外科医のリンドさんが、水兵たちをグループ分けして食事内容などの条件を変えて観察し、オレンジやレモンが壊血病に効果的なことを(偶然)発見しました。ところが、この治療方法はその後の三十三年もの間採用されることなく放置され、著名な医師のブレーンさんに再発見・再検証された結果、ようやく採用されることになったそうです。イギリスがレモン・セラピーを実施することで水兵たちの壊血病を劇的に減らす一方、他の国々は遅れをとったために、イギリスが遠方の土地を植民地化し、ヨーロッパ他国との海戦に勝利する上で、途方もなく有利な条件になったのだとか。
こうして「科学的根拠にもとづく検証」が行われるようになり、「瀉血」の有害性や、壊血病治療へのビタミンCの有効性が確認されるなど、近代医療が進んできたのです。
さて、この本は、代替医療を盲目的にダメと決めつけているわけではありません。代替医療も、「科学的根拠にもとづく検証」を行うべきだと主張しているのです。この主張のもと、代表的な代替医療として、鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法の四つが詳しく検証されていきます。
その結果は、「大部分の代替医療は、多くの症状についてプラセボ効果を上回る効果はないと言ってよい」という結論に(それどころか、一部については、むしろ有害な場合もあるようです)。もっともたいていの代替医療は、かなり高価な費用がかかるようで、それがプラセボ効果を強めている(結果として有効な治療に見える)場合もあるようですが……。それでも、代替医療に支払う高額費用に見合う効果が得られることは、ほとんどないとか。
この本では、日本でかなり人気のある「鍼」治療さえ、あまり効果がないと結論づけられていて、驚かされました。鍼やハーブ療法などの「代替医療」も治療には違いないと考えている人は、次の五つのアドバイスを心に留めて欲しいそうです。
1)なんらかの病気に対していずれかの代替治療をやってみようと考えている人は、事前にかかりつけの医師にそのことを伝えよう。その治療法が、すでに受けている通常医療の治療と干渉するかもしれないからだ(代替治療の薬が、通常医療の薬に良くない影響を与えることがある等々)。
2)医師が中止してよいと言わないかぎり、通常医療の治療を止めないこと。
3)代替医療では、とくに治療が長期にわたる場合には、費用がかさむことを覚えておこう。(中略)治療法の有効性が科学的根拠に裏づけられているかどうかを確かめよう。
4)プラセボ効果だけしかない治療は正当化できないことを覚えていよう。
5)どんな治療法にもリスクはあるので、あなたの受けようとしている治療法の危険性を、受益性が上まわることを確かめるようにしよう。

この本には、他にも「付録 代替医療便覧」で、多数の治療法についての評価が記載されています。その多くは効果がないか、むしろ有害なことが多い(財布にも悪い)と評価されていますが、ごく一部の治療については、運動による健康効果(ヨガ、アーユルヴェーダ、アレクサンダー法など)や、リラックス効果(瞑想、リラクゼーション)、マッサージなどの部分に効果があると評価されていました。瞑想まで「代替医療」に含まれているのに少し驚かされましたが、ヨガなどの運動や瞑想などは、あまり費用もかからず、身体や心の健康にも良いと思っていたので、この評価には安心しました(笑)。
個人的には、病院や薬が嫌いで、「自然由来」のものの方が身体に優しいと考えていたのですが、自然界にも毒キノコやトリカブトなどの有毒植物も多数存在しているので、「自然由来」でも安心できないと考えるべきなのだろうと思わされました。ハーブ療法に使われるものの一部には、有害なものもあるようなので、「自然療法」という耳触りの良い言葉を盲信せず、「治療法の有効性が科学的根拠に裏づけられているか」に着目したいと思います(なお、ハーブ療法に使われるものの一部には、治療効果があるものもあります。自然由来の医薬品も多いことを考えると、これも当然のことですね)。
当分の間は、睡眠・食事・運動など、普通に「健康によい」と言われていることの実践を通じて、「代替医療」だけでなく、病院や薬にも頼らず、自らの健康を守っていきたいと思っています(笑)。
代替医療の危険性だけでなく、医療の歴史も学ぶことが出来る本で、すごく勉強になりました。健康や医療に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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私はこの本を単行本で読んだのですが、この本にはより新しい文庫版(文庫本では『代替医療解剖』と改題)もありますので、購入したい方は文庫版の方が良いのかもしれません。