『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』2016/2/24
ジリアン テット (著), Gillian Tett (原著), 土方 奈美 (翻訳)

高度専門化社会の罠(サイロ・シンドローム)を指摘するだけでなく、その弊害を緩和するためのアイデアをも示唆してくれる本です。
「サイロ」とは、専門家集団、社会集団、チーム、あるいは同じ知識を信奉するグループを指し、これがさまざまな領域で、視野狭窄と部族主義という問題を作り出しています。この本は、「なぜサイロが形成されるのか」、「サイロにコントロールされるのではなく、われわれ自身がサイロをコントロールするすべはあるのか」という二つの問いに答えようとしているのです。
第一部では、人間には心理的、社会的、組織的カテゴリーを使って自らを取り巻く世界を整理する傾向があり、それが専門性の高いサイロに変化するケースが多いことを示し、サイロが強固だと愚かで有害な行動に結びつくことがあることを、ニューヨーク市庁、ソニー、UBS銀行などのケースを通して明らかにしていきます。
例えば、一九九九年のラスベガス、絶頂期にあるように見えたソニーのCEO出井伸之がお披露目した「ウォークマン」の次世代商品は、二つの部門がそれぞれ開発した二つの商品でした。ソニーが愚かにも互いに競合してしまうような製品を出してしまった理由は、社内が完全に分裂していたから……これはソニーの技術力の凄さではなく、「サイロ」の深刻さを如実に物語っていたのです。
そして第二部では、こうしたサイロ・エフェクトから生じる問題を乗り越える方法について、シカゴ警察、フェイスブック、クリーブランド・クリニックでの取り組みから探っていきます。この部分が特に参考になると思います。
これらの事例研究を通して、サイロ・シンドロームの弊害を緩和するためのアイデアとして、次の5つの教訓が得られたそうです。
1)大規模な組織においては、部門の境界を柔軟で流動的にしておく。
2)組織は報酬制度やインセンティブについて熟慮する。
3)データを共有し、それをもとに多様な解釈を行う。
4)組織が世界の整理に使っている分類法を定期的に見直す
5)サイロを打破するには、ハイテクを活用するのも有効。

「サイロ」を組織の「文化現象」とテットさんは捉え、次のように言っています。
「サイロの危険を完全に払拭することはできない。サイロを克服するのは終わりなき戦いである。というのもわれわれをとりまく世界は常に変化し、二つの逆方向の力が働いているからだ。複雑な世界にはスペシャリストや専門家集団が必要だが、それと同時に統合的な、柔軟な視点で世界を見る必要もある。サイロを克服するには、この両極の間の細い道をうまく渡っていかなければならない。これは容易ならざる作業だ。この難しい課題に取り組む第一歩は、まずサイロの存在を認めること。つづいてその影響についてしっかり考えることだ。そうした分析や議論のフレームワークとして有効なのが人類学である、というのが本書の主張だ。」
……「サイロ」の内部にいると、「同じ慣習をもつ」人々の中にいる居心地の良さのために、「変化」に抵抗感を持つでしょうし、そもそもそこが「サイロの中」だとすら気づかないかもしれません。それでも、たまには人類学者のような「インサイダー兼アウトサイダー」の視点を意識して、身の回りをもう一度眺め直してみるべきなのでしょう。
「世界の大きな問題を解決しようとは思わない。たくさんの小さな問題を解決できれば十分だ。いろいろな場所にプラスの変化をもたらすのは、たいていそんな小さなことだから」
シカゴ警察で、「殺人予報地図」を作ったゴールドスタインがそう言うように、私も周囲の「小さな問題」から地道に解決していきたいと思います。
自分の組織が「サイロ(知的たこつぼ)」状態にあるのでは?と懸念している方は、ぜひ読んでみてください。この本の中で、改善のヒントを得られると思います。