『幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII』2016/2/26
岸見 一郎 (著), 古賀 史健 (著)

アドラーさんの言う、誰もが幸せに生きるためにすべき「人生最大の選択」とは何か……ミリオンセラー『嫌われる勇気』で哲学問答を繰り広げた哲人と青年が、再び哲学問答を行います。
大学図書館をやめて中学教師となった青年は、アドラー思想に基づく教育を実践しようとして挫折し、「アドラー心理学は机上の空論」だと哲人を糾弾するために再び訪れてくるのです。アドラー心理学の「叱ってはいけない、ほめてはいけない」教育方針を貫くため、テストで良い点を取った子をほめず、宿題を忘れた子を叱らなかった青年の教室は、荒れてしまいました。アドラー心理学を疑い自らの教育方法に悩む青年に、哲人は、「貴方はアドラーを誤解している」と答えます。そして再び二人の長い問答が始まるのです。
アドラー心理学によると、問題行動には、5つの段階があるのだそうです。それは、1)称賛の欲求、2)注目喚起(ほめられなくてもいいから目立ってやろう)、3)権力争い(反抗、不従順)、4)復讐(相手が嫌がることを繰り返す、自傷行為)、5)無能の証明(課題に取り組んで失敗するより、最初から「できるはずがない」とあきらめたほうが楽なので、自分がいかに無能かを証明しようとする)なのですが、問題行動の大半は、このうちの第3段階にとどまっているので、そこから先に踏み込ませないためにも、教育者に課せられた役割は大きいと哲人は言います。
そしてアドラー心理学では、たとえ教師と生徒であっても、「縦の人間関係」ではなく、対等な「横の人間関係」を重視します。だから「叱ってはいけない、ほめてはいけない」のだそうです。なぜなら「叱る」ことも「ほめる」ことも、縦(上下)の人間関係が前提となっているから。
でもこれって、実際には「本当にそうなのか?」と疑問を抱いてしまいますよね。「教育」というのは、「知識」や「技能」だけでなく、「社会的に正しいこと」を生徒に教えることでもあるので、生徒がなにかを達成した時には、ほめたくなりますし、社会的に良くないことをした時には、叱りたくなります。むしろ、それが教師の仕事ではないかとすら思います。しかも最近では、子どもの能力を「ほめて」伸ばすことが、教育心理学的にも推奨されているような気がします。
でもアドラーさんは、「「ほめられること」を目的とする人々が集まると、その共同体には「競争」が生まれる。すると共同体は、報奨をめざした競争原理に支配されていく」、「承認欲求にとらわれた人間は、他者の期待に応えようとして、他者の人生を生きることになる」と考えているようです。
青年はこの教育法にあまり納得できないようですが、実は、私もいまだに納得できていません。「叱る」のが良くないのは分かりますが、「ほめる」ことは子どもの成長にプラスになると思います。ただし、アドラーさんの指摘するように、無駄に「ほめられたい」競争が起こるのは良くないと思うので、教師は、できるだけ生徒全員を一度は「ほめてやる」ように心掛けるべきだとも思いますが……。子どもたちは「ひいき」に敏感ですし、一人一人の「良い所」を見つけて長所を伸ばしてやろうという気持ちで生徒たちを見守る姿勢が、生徒たちを良い方向へ導くのに役に立つのではないかと思います。
……ということで、必ずしもアドラー心理学の考え方を無条件に受け入れようとは思っていませんが、参考になる考え方もとても多いので、その部分を取り込み、自分なりに咀嚼しようと考えています。アドラーさん自身も、自らの心理学が、教科書的に固定され、専門家のあいだでのみ継承されていくことを望まなかったそうです。時代の流れで、社会や人間関係への考え方も変わっていきます。アドラー心理学の精神を尊重しつつ、自分がより正しいと考えるやり方で、周囲と接していきたいと思います。
さてタイトルの『幸せになる勇気』ですが、哲人は青年にこんなことを言っています。
「(前略)まずは、あなたが自らの手で幸せを獲得すること。そうしないことには、ここでの議論はすべて不毛な、ただの罵り合いに終わりかねません。」
どうやら、「不幸を抱えた人間による救済は、自己満足を脱することがなく、誰ひとりとして幸せにしません。」という理由から、このように話しているようです。そして、「愛する勇気が「幸せになる勇気」」なのだと。
「われわれは他者を愛することによってのみ、自己中心性から解放されます。他者を愛することによってのみ、自立を成しえます。そして他者を愛することによってのみ、共同体感覚にたどりつくのです。」
自立した人間たちが、自分を犠牲にすることなく、自然に他者貢献をする。そして周囲に、しだいに心地よい共同体を築いて広げていく……そんな世界を実現していけたら、いいなと思います。
「ほんとうに試されるのは、歩み続けることの勇気。」
……いつも前向きに「より良い」と信じる方向に進んでいきたいと思います。