『貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム』2010/9/23
岩村 充 (著)

貨幣という決済手段を歴史的に見つめ、各時代の貨幣システムの問題点をあげた上で、未来の貨幣システムについてまで考察した本です。
なかでも「第1章 パンの木の島の物語」は、大昔の架空の島(パンの木の島)を舞台に、人々の経済活動のなかで「貨幣」がどうして生まれ、どのように機能してきたかを、すごく分かりやすく説明してくれる物語で、とても参考になりました。
林によって多くの実をつける年と、少しの実しかつけない年があるパンの木。パンの実は1年たたないうちに腐ってしまうので、その不安定な収穫量に困った人々は、「助け合い」という形で蓄えておくことにしたそうです。すなわちその年たくさん実をつけたパンの木の持ち主は、仲間に分け与えることで、少ない収穫量の年にはお返しをもらうのです。これが「貯蓄」の始まり……なるほど!と思いました。
そして信頼しあえる仲間内だけでなく、他人とも同じような約束をするようになる。これが「契約」の始まり。そしていつしかパンの実は、他のものとも交換できる貨幣のような役割を果たすようになり、さらにパンの実より軽くて保存もきく美しい貝殻が「貨幣」として機能し始める……そして国のような統治機能が出来て、さらに島の外から大きな船がやってきて、パンの木の島はより大きな国の貨幣システムに組み込まれていく……こんなに具体的で分かりやすい経済学の物語は初めて読みました☆ すごく参考になるので、ぜひ読んでみて欲しいと思います。
この素晴らしい「第1章 パンの木の島の物語」で、「貨幣というシステムが、どうして成り立っているのか」を理解した読者は、さらに「第2章 金本位制への旅」で、今の貨幣制度の直接の源流である金本位制が成立するまでの貨幣の歴史を辿り、「第3章 私たちの時代」で金と決別した現在の貨幣の価値の拠り所は何か、政府と中央銀行の役割はどんなものかを考えるという知的な旅へいざなわれます。
そしてさらに岩村さんは「第4章 貨幣はどこに行く」で、低成長時代の貨幣システムはどうあるべきかについてまで考察しています。これを全部読むと、貨幣や金利、政府や中央銀行の役割について、今までよりも深く本質的に理解できたような気がしました(気がするだけかもしれませんが……)。
さて、個人的には、「貨幣」というのは、「決済と貯蓄を簡単にする手段」に使われる「情報」だと考えています。「お金の総量はいくらあるのか? 誰か把握している人はいるのか?」などの疑問を感じたり、何も作り出さず株取引をするだけの人が巨額の富を得ることに懐疑の念を抱いたりしつつも、とりあえず「決済と貯蓄」をするのには今のところ「貨幣」以上に簡単な方法がないので、それなりに満足し信頼して「貨幣システム」を利用しています。
この本を読むまでは、グローバル化がどんどん進みつつある現在、全世界統一貨幣システムがあると便利なのにな、と考えていなくもなかったのですが、ギリシャの財政危機が表面化したことで問題化した「ユーロの危機」を見ると、全世界統一貨幣というのは、実は相当危険なシステムなのかもしれないと考え直すようになりました。実体に裏打ちされていない「貨幣」は、政府への信頼で「ふらふらしながらも、そこそこ機能している」ものなのかもしれません(汗)。
いろんなことを深く考えさせてくれる本でした。経済に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆