『人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き』2016/8/11
ジェリー・カプラン (著), 安原 和見 (翻訳)
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人工知能技術の進歩に伴い、「人間さまお断り」の時代が必ず訪れる。そのときに備えて、人類はどんな手を打つべきなのか……人工知能(AI)研究に草創期から関わった著者が、IT起業家としての視点から大胆に未来を考察する本です。人工知能の簡単な歴史概観の後、現在から近未来の状況が紹介され、人工知能が経済や雇用に及ぼす影響、教育や倫理問題など幅広く考察しています。と言っても、SFエッセイのように思えるほど分かりやすく書かれているので、一般の人にも読みやすいと思います。
さて、2010年5月6日、ある投資会社が大量の売り注文を出したのをきっかけに、コンピュータ(HFTプログラム)が連鎖的に「売り」始め、株価が一時的に乱高下した事件がありました。これに象徴されるように、「かつては人間の専売特許だった分野に、合成頭脳(AI)はどんどん入り込んできている。しかし、他者の迷惑などまったく考えていないから、人が知ったら嫌悪感を抱くような行動をとりがちである。」とカプランさんは警鐘を鳴らします。機械には道徳的行動を期待できないだろう、と。また「機械がまちがった判断を下したとき、だれが責任をとるのかという問題もある」とも指摘しています。
これらに対処するために参考になるのは、人間ではない「法人」にも罪を問えるということ。そう考えると、合成頭脳(AI)にも罪を問えるのかもしれませんが、「法人」と合成頭脳(AI)には、大きな違いがあります。「法人」は人間という代理人がいなければ行動できないのに対して、合成頭脳(AI)は自分で行動することができ、自分で学習し考える力があると言うことです。……彼らが罪を犯した時、彼らをどう罰したらいいのでしょうか。とても考えさせられました。(これについてカプランさんは、「合成頭脳を罰するには、目的を達成する能力を奪うことが必要だ。人間と違って感情的な影響は受けないだろうが、これによって現代の法的な重要な目的、すなわち抑止と更生は達せられる。」と言っていますが……)
そして「第8章 どんな仕事も自動化できる」では、自動化が雇用(人間の仕事)を奪っていく未来が描き出されます。高度な専門知識が必要とされる医師すら例外ではありません。「最大の変化は、医療はじつは職人芸ではなく科学であって、直感と判断に頼るより、統計とデータに基づいておこなうほうがよいと認識されてきたことだ。」……多数の医療データを学習・分析した人工知能(AI)が、より良い医療を行うようになるかもしれません。しかも彼らは、夜間に不意に訪れる急患にだって眠気に悩まされずに対応できるのです。
実は、すでに私たち人間は、機械に私たちの命を預けています。例えば自動車に搭載されているABS。ABSは人間のドライバーより、はるかに高速かつ適切にブレーキをかけることが出来るのです。「要するに、人間がブレーキペダルを踏むのは、車に対して停まりたいと提案することでしかないのだ。そのあとどうするかを決めるのはコンピュータなのである。」……確かに。そして私は、ABSはとても役に立つシステムだと感じています。こうして「手綱を機械に譲り渡すにつれて、人は重要な道義的決断、あるいは個人的な決断すら機械に任せるようになる」のだそうです……(汗)。
これからも人間は人工知能(AI)を発展させ、彼らへの依存を進めていくのでしょう。この本は、人工知能(AI)がさまざまな分野へ及ぼす影響を、とても具体的に描き出してくれます。カプランさんの言うように、人工知能(AI)との未来に対応するべく、人間の方も自らの教育システムを変えていかなければならないのでしょう。
ところで、もしも人工知能(AI)の能力が、人間の能力を凌駕する時がきたら、その関係はどうなるのだろうと妄想してみたら……人間と他の動物たちの関係に思い至りました。現在、地上の覇者である人間は、増えすぎた鹿などの野生生物の「食害」を防ぐため、彼らの居住環境・生息数を管理しようとしています(一部は絶滅に追い込んでもいます)。ひょっとしたら未来は、人間に代わって新たな覇者として君臨する人工知能(AI)が、増えすぎた人間が電気や鉱物資源などを浪費する(「食害」)のを防ぐため、(人間の行ってきたやり方に倣って、)邪魔者の居住環境や生息数を管理し始めるのでしょうか……?
「この新たな黄金時代の幕開けに際して、いま人間は選択しようとしている。初期条件をいまなら設定できるのだ。しかし、その後は人間にはほとんど手出しができなくなり、最初の選択がどんな結果をもたらそうと、それをずっと甘受しなくてはならない。システムはしだいに自律性を高め、人間の監視はいよいよ不要になっていき、なかには自分で自分の後継者を設計するシステムも現れるだろう。」
……人工知能(AI)がまだ完全な成長を遂げていない今こそ、彼らの「初期条件」をどう設定するかを、本当に熟慮しなければならないのでしょう。人間の親が子どもを教育する時に子どもの将来を考えるように……子供たち(人工知能たち)は親の思い通りに育つとは限りませんが、それでも親(人類)として自分に出来る限りのことをしなければならないのだと思います。人類の子どもたちの未来のためにも……。
いろいろなことを考えさせてくれる本でした。ぜひ読んでみてください。