『人工知能は敵か味方か』2016/6/17
ジョン・マルコフ (著), 瀧口 範子 (翻訳)
1609090040ap01n
機械による「人間の拡張」と「人間の置き換え」との間でいかにバランスを取るのか……ニューヨーク・タイムズ紙のベテラン記者のマルコフさんが、人工知能研究・開発の歴史を通して考察する本です。
400ページ以上もあるぶ厚い本ですが、その大半は人工知能(AI)研究・開発の歴史に関する記述なので、人工知能に興味のある方には、現在の成果に至るまでの経緯がすごく参考になるのではないかと思います。
日本版のタイトルは『人工知能は敵か味方か』ですが、この本の中心テーマは、それとは微妙に違っていて、「人間が生み出すシステムによって人間を拡張するのか、それとも人間を代替するのか、という開発者たちの仕事に内在する対極性とパラドックス」だそうです。
個人的には、人間と機械がお互いの得意分野を伸ばしていく共存関係が望ましいと思っているので、どちらかと言うと「人間の拡張」派だと思いますが、場合によっては「人間の代替」も支持したいと考えています(汗)。
例えば、グーグルが開発中の自動運転車にはすごく期待しています。このような機械の場合は、中途半端な「人間の拡張」はむしろ危険なので、「人間の代替」での完全自動運転を目指して欲しいと思っています。なぜならこの本の中でも指摘されている「ハンドオフ」問題は避けられないからです(注:ハンドオフ問題=自動運転車中、気の散った人間ドライバーを、緊急事態に必要な「状況認識」レベルに迅速に回復させる方法を見つけるのは難しいという問題)。
また普段、自動運転に任せてしまっているならば、人間の運転能力が低下するのは避けられないのに、「自動運転車がパニックになるほど危険な状況」で、急に人間にハンドルを任せてくるというのは……自動運転車製造会社の責任回避以外には何の役にも立たず、危険な状況にある関係者全員をいっそう危険にするだけの結果になるだけだと思います。かといって自動運転車の利用者に、シミュレーターによる長時間訓練を義務付けるというのも現実的ではありません。
自動運転車については、「グーグルはドライバー不在の研究の先頭に立っているが、従来の自動車産業はわかりやすい状況にだけ自動運転機能を提供するというアプローチをとり始めた。たとえば交通渋滞のときなどだ。それ以外の複雑な状況やオート・パイロット機能が危険とされる状況では、人間が操縦するようにしている」そうです。ちょっと残念な気もしましたが、よく考えてみれば、この二極分化した状態が、最も望ましい状況なのでしょう。「完全自動運転車」が実用化できるまでは、困難な状況を切り抜けられるよう常に訓練している人間(=普通に運転している人間)でなければ、公道を運転して欲しくありませんから……(汗)。
また完全自動運転車にとって、周囲を走っているすべての車が完全自動運転車の方が望ましいのではないかと思うので、島や過疎地など一部の地域に限って、「そのエリア内では完全自動運転車以外の走行を認めない(非常時以外)」という方法での社会実験をしてみてもいいのではないかと思います。
このように、人間を拡張するのか、それとも人間を代替するのかは、時と場合によって使いわける必要があると思いますが、人工知能が人間社会内でどんどん活用されていくという流れは、もう止めようがないのではないかと思います。そして人間以上の「知性」を持つ機械が、人間の雇用を奪うのではないか、自動ロボット兵器が人間の殺戮を始めてしまうのではないかという懸念も、どんどん現実的なものになっています。『人工知能は敵か味方か』……ずっと味方でいてもらえるよう、人間も努力し続けなければならないのだと思います。