『動物農場』1995/5
ジョージ・オーウェル (著), George Orwell (著), 高畠 文夫 (翻訳)和書:』
1605020070AP01N
人間による搾取に怒り、革命によって「すべての動物の平等」のために誕生した動物による動物のための「動物農場」。素晴らしい生活が始まるはずだったのに、人間に代わって管理者となった賢い豚が、じわじわと独裁化を進めていく……楽しいおとぎ話に辛辣な風刺をもりこんだオーウェルの傑作寓話です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
実を言うとこの作品は、児童文学のジャンルで紹介すべきかどうか悩みました。擬人化された動物たちの面白さの中に、心がざわつくほどの風刺(ブラックユーモア)がこめられていて、文学的に歴史的にも価値が高い文句なしの大傑作なのですが、このブラックユーモアを本当に理解できるのは、ある程度、歴史や社会システムについての知識がある中・高校生以上の人だけではないかと思ったからです。
でも現実に「理想的な国家」などは存在せず、不平等や搾取はどこにでも存在するのだから、「文学作品」の形でそれを知っておくのは大切なことだと考えて、やはり紹介することにしました。この作品は子どもの頃に一度読んで心の片隅にとめておき、大人になってから、ぜひもう一度読み直して欲しい作品です。この本にこめられた苦い味が、いっそう深く理解できることでしょう。
さて、この本は1943年に書き始められたそうですが、その政治的な内容のせいか、多くの出版社に断られ、1945年になって初めて出版されたそうです。それというのも、この動物農場が風刺しているのは、ソヴィエト神話とスターリン体制だったから……。面白おかしく(?)描かれている内容に、現実の人間社会の姿がだぶって見えるのも当然なのです。
「平等な」社会への理想を語る老賢者、それに影響を受けて革命を起こす若者、理想を実現すべく掲げられる格言、人間のない社会で頭角を現していく賢い者(新しい管理者)、管理者同士の内紛、邪魔者を排除し勝利者となった者の独裁化、そして腐敗……この道筋が、現実の歴史的背景をふまえてリアルに描かれていきます。擬人化されているので、笑いの砂糖でくるまれてはいますが……その裏に人間社会の醜い本性が透けて見えて、どうしても怒りや困惑や諦めなどの苦い感情がこもった複雑な笑いにならざるを得ません。
とにかく怖くて面白い逸話が満載です。
革命の英雄だったはずの食用豚のスノーボールが、同じ食用豚のナポレオンとの内紛に敗れて汚名を着せられていく様子とか、新体制になじめない者たちがどんどん粛清されていく様子とか……動物を虐げ搾取してくる人間を排除して素晴らしくなったはずの世界が、あまりにも黒すぎて、どんどん「どうしてこうなった」状態になってしまいます。
なかでも動物たちの憲法「七戒」の改竄が、呆気にとられるほど傑作。もともとは「動物はベッドで寝るべからず」だった条文の最後に、「シーツを用いては」という短い文を加えるだけで、堕落が合法化されていく見事さには、大笑いしながらも、(現実にもあるな、これ。気をつけなくちゃ……)と感じずにいられませんでした。
そして動物たちの農場は、一見繁栄しているように見えますが、実は、最下層の労働動物たちは、人間の支配時代より一層辛い生活をしいられるようになります。これをどう考えたらいいのか……誰かが独裁者となった社会は、必然的にこのような形になってしまう、というのが作者の主張なのかもしれません。それとも、どんな社会であっても、弱い存在は虐げられるものなのでしょうか? なにしろ生物の生存原理は「生存競争」なのですから。
……この本で描かれる社会では、結局は人間による支配の頃の方が、最下層動物にとってはマシな生活ができたような気もしますが、それでも「動物」自らの手で運営される農場の方が、より「自由」に近づける可能性の高い社会のような気もします。もっともこの動物農場では、管理者として特権階級化していく豚たちが、だんだん「人間に近いもの」になっていくのですが……。
大人になっても、読後に複雑な思いを抱かせられるこの本は、『一九八四年』と並ぶ大傑作だと思います。ぜひ読んでみてください☆