『ニューロ・ウォーズ―脳が操作される世界』2010/6/1
ザック リンチ (著), 石浦 章一 (監修), Zack Lynch (原著), & 1 その他
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ニューロテクノロジー産業機構(NIO)の創設者で取締役のリンチさんが、先端脳科学研究者に取材して、ニューロサイエンスの現状と近未来を描いた本です(2010年発行)。
脳科学で得られた証拠で犯罪を裁くという話題から、脳科学をマーケティングや金融へ応用する話題、さらにテロや戦争をも変えつつあるなど脳科学関連の多彩な話を紹介しています。驚くような内容もありますが、日本語版監修者の石浦さんによると、科学雑誌の「Nature」、「Science」でも取り上げられたものがほとんどだそうで、最新脳科学の紹介といってもいいそうです(ただしオキシントンの自閉症への効果について賛否両論あるなど、定説になっていない話が含まれていることもあるそうですが……)。
この本は、脳科学の産業界や戦争での利用について幅広く多彩に紹介しているので、残念ながら一つ一つは詳しくありませんが、脳科学に興味がある方にとって、発展の方向性を知ると同時に、利用にどのような危険性があるのかを考えるのにも役に立つ本だと思います。
さて、脳科学の産業界での利用や、犯罪・戦争での利用については、期待したくなる部面と、背筋が寒くなる面があります。
たとえば「第2幕 神経法学(脳の「指紋」でウソがばれる)」では、新しい「嘘の発見方法」が紹介されます。それは、ある犯罪において、事件の詳細を知る人間しか反応しないような証拠物を見せることで、特定の条件下で脳の記憶に関する領域が画像として「明るく映るかどうか」を観察することなどで行われます。従来の嘘発見器はごまかすことが比較的容易だったそうですが、この方法は、「脳にその記憶があるか」について脳自体の働きを見るので、ごまかしにくいのです。
ここで興味深かったのは、「嘘をつくのは真実を言うより複雑な仕事」だということで、「真実を話すときに活動している(脳の)領域は7つ。対して、嘘をつくときに関係してくる領域は14もある」のだそうです。嘘をつく(隠し通す)のは難しいと思っていたので、すごく納得いきました(笑)。そして、このような方法で犯罪者の「嘘」を見抜けるなら、真犯人をあぶりだしやすいだけでなく、冤罪の発生も防げるのでは……と期待してしまいました。
またニューロエコノミクスという、fMRI(リアルタイムで脳活動を観察できる装置)とニューロサイエンスの原理を利用して金融取引の成果を向上させる試みに関する現状の紹介もあります。優れたトレーダーの脳の動きを調べて、金銭に関する選択にどのように反応するか、予測可能なパターンがないかを探っている、などの研究をしているそうです。
さらに、向精神薬を利用して学業や仕事の成績をあげる、などの話は、副作用への心配や、高価な薬を手に入れられる富裕層の一人勝ちへの懸念が頭をよぎり、なんとなく嫌な感じがしました(汗)。
そして背筋が寒くなったのは、ニューロ社会を着々と築きつつある重要な研究が、アメリカの防衛費を使って行われているという「ニューロウォーズ」。強制的な真実の暴露や記憶の削除を目的とした精巧なニューロ兵器が、現実性を増してきているそうです。
肉体と感情の回復力を増強する薬物、注意力を向上させる薬物、人工衛星で感知した脳波をコンピュータで分析する装置など、使い方によって、素晴らしくも、恐ろしくもなるような話が次々と紹介されます。
すでに現実になった兵器としてADSという暴動鎮圧システムがあるそうですが、これは500メートル先の人間に電磁波を照射でき、標的の皮膚の下の水分子を摂氏50度まで熱するというもので、標的になった人間は即座に痛みを感じ、なんとかして電磁波から逃れようと戦線を離脱するしかないそうです。SFみたいですね……。
脳科学研究は、現在もどんどん進んでいます。そしてその成果が、今後の社会を変えていくことは間違いないと思います。それらの発展が正しい方向に進んでいくのかどうか、今後もその動向を注目していきたいと思います。