『DNAに魂はあるか―驚異の仮説』1995/12
フランシス クリック (著), Francis Crick (原著), 中原 英臣 (翻訳)
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「意識」を科学的に解き明かすための実験的研究の方向性を教えてくれる本です☆
著者は、あの「ワトソン-クリックのDNAモデル」で有名なクリック博士で、そのためか日本で発売された本のタイトルには『DNAに魂はあるか 驚異の仮説』と「DNA」が入っていますが、どちらかというと「魂とDNA」というより「意識とニューロン」に着目した本です(原題にも「DNA」は入っていません)。
この本の発行は1995年と少し古いので、2016年現在、「意識」に関する研究は、この頃よりは進んでいますが、「意識」を科学的に解き明かすという試みがあまりにも困難なので、現時点でも、このころから飛躍的に進んでいるわけではありません。またこの本は、意識研究の戦略を示すとともに、これまでの研究の概略も紹介しているので、「意識研究」の入門書として、今でも役に立つと思います。
さて、私たちのなかで「意識」というのは、どのように実体化しているのでしょうか? 私たちに「意識」があると感じている以上、生物的身体の中にそれを生まれさせ、維持している仕組みがあるに違いありません。
え? 脳にあるんでしょ? と実はすぐに単純に思ってしまったのですが(汗)、それが「脳」にあるとして、脳のどこにあるのか? と考えると明快に答えることは出来ません。
クリックさんたち研究者は、もっとも分かりやすいと思われる「視覚」に着目して、目で見た刺激が、脳のどのニューロンをどのように発火させていくのかを実験的に研究することで、「意識」を明らかにしようと試みています。
人体のなかで最も進化した器官は「目」だといわれ、目を通して、私たちの心は外界とつながっています。この本では、目(脳)が、ものを見るメカニズムを手がかりとして、人間の意識が脳の何処で、どのようにして生まれるのかを推理しようとしています。
たとえば人間の目に、赤い光を瞬間的に見せ、続いて緑の光を瞬間的に見せると、その時間の長さや間隔によっては、赤でも緑でもなく、「黄色」を見たと感じるそうです。
また同じ視野に、最初の画像と、それを邪魔するパターンをもつ画像を連続提示した時の見え方なども研究しています。
このような実験的方法で、視覚の仕組みを解明しようとしていますが、それは容易ではありません。なぜなら視覚刺激は、他のシナプスへも伝送されてしまうので、ニューロンは一度に一個だけのニューロンを考えていては駄目で、多数のニューロンの働きを合わせた複合体で考えなければならない……つまり視覚に関する単純化したモデルを作ることも困難だからです。
また後半ではコンピュータを使った脳研究についての考察もしています。
現時点では「意識」を科学的に解き明かすことは出来ていませんが、この本を読むと、「意識」をめぐって、どのような研究がなされてきたかを知ることができて、とても興味深いです。