『解剖学教室へようこそ (ちくま文庫)』2005/12
養老 孟司 (著)
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解剖学者の養老さんが、解剖学の歴史や人体の構成、細胞など解剖に関わることを中心に、ことばの役割、ものの見方、心とからだの問題など、幅広い視野から、ヒトという存在を捉え直して考察している本です。
「解剖」って、確かに大事だとは思うけど、やっぱり、なんか気味悪い……と思っていたのですが(汗)、『バカの壁』などの本に説得力を感じていた養老さんの本だったので、興味がわいて読んでみました。
正直に言って……養老さんが最初に解剖した時のリアルな体験談や、学校の理科室の不気味な人体模型図的なイラストに……やっぱり気持ち悪い(汗)……と再確認もしてしまいましたが、解剖の歴史などを知ると、医学の発展に「解剖」は欠かせないものだと思います。江戸時代の中ごろまで、日本では人体の解剖が行われてこなかったとか。それどころか長い間、禁止されてきたそうです。歴史で習ったあの「大宝律令(702年)」で禁止されて、江戸中期まで人体の解剖はされませんでした……そんなことで、よく病気やけがを治療できたものだな、と逆に怖くなってしまいます(汗)。
さて、養老さんは大学の医学部で、二か月ほどかけて一体の人体を解剖実習したそうです。医学部で本物の人体を解剖するって……やっぱりとても大切なことだと思います。
そして、この本では、解剖や人体、細胞などの医学・生理学的な知識が得られるだけでなく、ことばやものの見方について、養老さん独自の考え方も知ることが出来るので、それも興味深かったです。
とりわけ「解剖」と「ことば」の関係についての話は、面白いと思いました。養老さんによると、モノをバラバラに壊すことのはじまりは、「ことばを使う」ことだそうです。
解剖をすると、からだの中について、いくらかの知識が得られます。そこで、からだの中にある「構造」に、名前をつけることを始めるのです。そして名前をつけることは、ものを「切ること」なのだとか。「頭」という名前をつけると、「頭」と「頭でないところ」ができてしまいます。本来、この二つの境目は明確でないはずなのですが、「ことばの中」では、切れてしまうと言います……なるほど、解剖学者の養老さんらしい視点だなあ、と感じました。
また西洋と東洋の違いが発生する一つの理由は、アルファベットで書くことにある、という視点も面白いと思いました。世界はことばで表されます。東洋では「漢字」のように全部数えたら五万もあるものを使っていますが、西洋のアルファベットはたったの26文字ですべてを書けてしまう。このような発想が、分子→原子→素粒子という上下の階層構造への発想へと繋がっていくのだとか……これも、すごく面白くて説得力のある考えだと思います。
そして人体の単位(骨や細胞など)を考えたのも、アルファベットを使う西洋人。それぞれの骨が、アルファベットで、それをきちんと正しい順序で並べると「骨格」になる……このように「解剖学」の話が、いつの間にか西洋と東洋の違いにまで発展していきます。
からだを知ることは、広い意味での人を知ること……。
この本は、若い人向けに書かれた本なので、全体的にすごく読みやすかったのですが、解剖学から、心とからだの問題や哲学など幅広い内容に及んでいて、いろんなことを考えさせられました。医学や生理学に興味のある若い人々には、ぜひ読んで欲しいと思います☆