『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』2019/3/14
今和泉 隆行 (著)

 地図を感覚的に把握するための技術を教えてくれる本で、内容は以下の通りです。
点と線でつかむ土地勘
(体になじむ地図をみつける、身近な場所の大きさを地図で見る、地図上の長さと距離の体感をつなげる)
面でつかむ土地勘
(道路模様から地形と密度を想像する、新しい道と古い道 沿道の新旧を比べて見る、地図模様から生活感と歴史を想像する)
土地勘から都市勘へ
(都市の発達と成長・年輪を読み解く、街の賑わいを決める人口・地形・集散、街は動く? 街の移動と過去・今・未来)
都市・社会を映す地図
(地図表現の特徴と都市地図の変化)

 地図感覚を磨くと次のような技能が身についてくるのだとか。
1)縮尺が書かれていない地図でも、距離感が大体つかめる
2)道路の模様からその土地の新旧や風景が見えてくる
3)主要な施設の大きさや分布をみると、都市の成長過程や集客力、街の賑わいが読み解ける
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 例えば「点と線でつかむ土地勘」には、「小学校の大きさが、地図を見るときの目安の一つになる」などのヒントが書いてあり、なるほど、賢い視点だなーと感心させられました。
 また「地図上の長さと距離の体感をつなげる」の「福岡からの所要時間の長短で描かれた地図」はかなり衝撃的でしたが、実感として納得できるものでした。確かに新幹線を使えば鹿児島まで1時間半以内で行けますが、新幹線のない宮崎までは3時間半……。時間で描かれた地図を見ると、九州の地図はこんなに歪むのか……。
 これは首都圏でもすごく感じることで、たとえば千葉県や埼玉県の場合、県内の都市に行く場合でも、なぜか東京駅や池袋駅を経由した方が速いことが多いんです。距離では圧倒的に県内の路線を使った方が近いのに、待ち時間が短くて快速を利用できる東京や池袋駅を経由したほうが、時間的にはずっと楽で速いんですよね……いろんな意味でやはり大都市や新幹線は便利なんだなーと思わされました。
 また、とても参考になったのが、「道路模様から地形と密度を想像する」。道路模様で傾斜面が読めるのだとか。平地の場合は「道路幅は太く、道路は直線的で規則的」なのに、傾斜地の場合は「道路幅は細く、行き止まりもあり、道路は曲線的で不規則」だそうです。そして、時代によって斜面の住宅地は異なるそうです。小規模な開発だと「地形、傾斜面はそのまま・道路網は複雑で曲線的」なのに、高度成長期の大規模開発では「広範囲を面的に整地・道路網はわりと直線的」で、近年の大規模開発は「広範囲を面的に整地・道路網は規則的な曲線」が多いそうです。……確かに。
 さらに「都市の発達と成長・年輪を読み解く」では、都市の中心地と鉄道の駅の位置関係に関する話がとても興味深く感じました。古くからの大都市の中心部は、鉄道の駅から離れた場所にあることが多いですが、それには次の理由があるのだとか。
「(前略)開通当初は蒸気機関車で牽引される長距離列車や貨物列車が中心でした。蒸気機関車の時代は煙害もあれば、機関車や貨物車が待機、転回するための広い敷地を要したため、駅は市街地から離れたところに作られました。そのため鉄道駅の場所を見ると、そこが明治時代の市街地のぎりぎり外側であることが多いのです。」
 ……そうだったんだ。用地獲得のしやすさ(建物の少なさ・価格の安さ)のせいだけなのかと思っていた(汗)。
 こんな感じで、興味深い記事が満載だったのですが、この本を読んで「地図の読み方」が分かったかというと……地図記号の読み方などが出てくるわけではなかったので、「地図の読み方を教えてもらえた」というよりは、「地図で読み解く人々の暮らしの変遷」を教えてもらった感じがしました。
 また方向音痴気味の私としては、「地図感覚」がつくことで方向音痴も治せるかも……という期待もしたのですが、残念ながら、そういう効用はあまりなかったような気がします(汗)。方向音痴の克服のためには、とにかく、きちんと地図を確かめながら歩くべきなのでしょう。
 それでも、「地図」からはいろんなことが読み取れることに気づかされ、日本各地の都市の変遷を概観できたような気がします。
「地図感覚」を磨ける本。地理好きの方は、ぜひ眺めてみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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