『NHKスペシャル 人体 神秘の巨大ネットワーク 第4巻: 【第6集】 “生命誕生” 見えた!母と子 ミクロの会話/【第7集】“健康長寿”究極の挑戦』2018/7/30
NHKスペシャル「人体」取材班 (編集)

 NHKの番組「人体~神秘の巨大ネットワーク」書籍版第4巻(最終巻)です。「第6集 “生命誕生” 見えた!母と子 ミクロの会話」と、「第7集 “健康長寿”究極の挑戦」が収録されています。最新科学と最先端の顕微鏡がとらえた生命誕生の壮大なドラマと、人間の最大の敵「がん」「心臓病」「脳卒中」への全く新しい治療戦略……前回同様、今回も興味津々な内容です!
 まず「第6集 “生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話」。受精卵というたった一つの細胞が、一人の人間の姿形にどう変わっていくか、どうして変わっていくのか、すごく謎だと思っていましたが、この本は、その謎にぐいぐい迫っていきます。なんと、その命運も、細胞たちが盛んに交わす「会話(メッセージ物質)」が握っていることが分かってきたのです。
「受精卵の中で働き始めるメッセージ物質が、異なる細胞を生み出す「スイッチ」の役割を担っていたのだ。初めは単に分裂して数を増やすだけの受精卵だが、メッセージ物質を受け取ることで細胞にスイッチが入ると、それまでとは異なる細胞への変化が始まる。その様子は、まるでドミノ倒し。次から次へと、異なる組織や臓器がつくり出されていくようになる。」
「まず、母親の胎内で分裂し、ある程度まで数を増やした受精卵の中では、一部の細胞たちがメッセージ物質のWNTを盛んに出し始める。このメッセージを受け取った細胞たちは、次第に変化し始め、心臓の細胞へと変貌していく。こうして、心臓が生まれる。
 さらに心臓の細胞は、メッセージ物質「FGF(線維芽細胞増殖因子)」と出し始める。このFGFが伝えるメッセージは「肝臓になって!」というものだ。FGFは細胞の増殖や、別の細胞への変化を促す働きを持つ。FGFを受け取った周囲の細胞は、肝臓の細胞へと変化を始める。このようにして細胞たちが互いにメッセージ物質を出し合うことで、肺、すい臓、胃など、さまざまな臓器が次々につくられていくと考えられる。
 ただし、これはかなり単純化した説明だ。実際には、メッセージ物質が1つ働くだけで心臓や肝臓が完成するわけではない。数多くのメッセージ物質が関わり、複雑なコミュニケーションが行われていることも分かっている。また、メッセージ物質の濃度が違ったり、タイミングがわずかにズレたりしただけでも、臓器をうまくつくれなくなることが多い。細胞同士のメッセージのやりとりは非常に繊細かつ精密なのだ。」
 ……へー、そうだったんだ……こんなふうに、たった1個の受精卵から「自動的に」どんどん臓器が出来ていくようにプログラムされているんですね……なんか、感動的です。
 そして、読んでよかった!と思ったのが、「第7集 “健康長寿”究極の挑戦」。ここでは、最新のがん治療(研究)の現状や、健康長寿に向けたヒントを読むことができて、すごく参考になり、今後に期待を持てるようになりました。
 そのキーワードが「エクソソーム」。
「「メッセージカプセル」とも呼ばれるエクソソームの中には、RNAやマイクロRNAのほか、DNAやたんぱく質など、さまざまな物質が詰め込まれている。」
 そして、がんは、「エクソソーム」というカプセルの中の「特殊なメッセージ物質」を駆使して、自らの生存を図っているのだそうです。
「(前略)2007年にロトバル博士がマイクロRNAはエクソソームに包まれて細胞の外へ放出されることを突き止め、世界中があっと驚いた。細胞外へ放出されたマイクロRNAは、エクソソームというカプセルに内包された状態で血流などに乗り、遠く離れた組織や臓器に運ばれ、そこでの遺伝子の働き方を調節する役割を担っていると分かったのだ。その後、世界中で新たなマイクロRNA探索が進み、現在までに2,600種類以上が見つかり、人体でも約500種類の存在が確認されている。私たちの体の中では、日々、マイクロRNAによる約500のメッセージが体内の遺伝子の働きを調節していることになる。」
「がんは遠隔の臓器に転移する過程において、まずは自分の分身としてエクソソームを分泌し、目的の臓器に先遣隊として送り届け、転移のための環境を整えるのです。つまり、体のあらゆるバリア機能を破壊し、破綻させるという機能がエクソソームにあるということになります。」
 がんは人体にもともと備わっている素晴らしい機能を、巧みに利用して増殖しているんですね。でも、今後はそれを逆手にとって、がん細胞が出すメッセージ物質を標的とした、全く新しい治療戦略の研究が始まっているのだとか。
 また、最近話題の、たった1滴の血液で13種類のがんを早期診断できる検査についても、詳しく知ることが出来ました。
「国立がん研究センターには、国内最大規模のがんのバイオバンクがある。バイオバンクとは、血液や組織などをそれぞれの診断情報などとともに保存し、医学研究に活用するシステムだ。」
「バイオバンクの血液検体を活用した研究成果の1つが、たった「1滴の血液」で乳がんや大腸がんなど13種類のがんを早期診断できるという、現在開発中の「次世代がん診断システム」だ。この画期的ながん検査で利用するのは、がん細胞が放出するメッセージ物質であるマイクロRNA。近年の研究から、がんのタイプによって、放出するマイクロRNAの種類や量は異なることが分かっている。そこで、国立がん研究センターのバイオバンクに保存された血液検体などを用いて検証したところ、それぞれのがんには特徴的なマイクロRNAの組み合わせがあることが判明した。」
 こうやって患者さんのデータや医療現場での経験が蓄積され、未来の医療に活かされていくのは素晴らしいことだと思います。
 この他にも、運動が、病気の予防だけでなく、がんの治療にも役立つかもしれないこと(「筋肉」が出すメッセージ物質を生かすことで私たち自身の体に潜む「がん撃退パワー」を引き出す)や、光と免疫でがんを攻撃する方法、幹細胞から骨をつくり「健康寿命を」延ばす方法など、将来の医療への期待を感じさせてくれる記事を、たくさん読むことが出来ました。
 とても参考になったので、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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