『対論! 生命誕生の謎』2019/12/6
山岸 明彦 (著), 高井 研 (著)

「地球生命の起源は深海の熱水噴出孔にある」ことを実証しようと、水深2000メートルの深海で生物探査を行う微生物学者の高井さん。一方、国際宇宙ステーションで行われている生命実験「たんぽぽ計画」の代表を務める分子生物学者の山岸さんは、「生命は陸上の温泉で生まれた」と考えています。まったく異なる説を唱える二人が、生命の起源や進化の謎、地球外生命探査について激しく論じ合い、生命の本質を明らかにしようとする対談集です。
 高井さんが「地球最初の生命が誕生した場所は、深海の熱水活動域」であると考える最大の理由は、エネルギーの問題だそうです。
「生命が誕生し存続するためにはエネルギーの存在が不可欠で、さらにその「生命活動にとってちょうとよい案配の」エネルギーが同じような場所で、長時間にわたって安定的に供給され続けなければなりません。地球において、およそ40億年にわたって生命に「ちょうどよい案配の」エネルギーを供給し続けてきた場所は、深海の熱水活動域をおいて他にないのです。」
 一方、山岸さんの方は、「地球の生命はRNAの誕生から始まった」と考えています。
「この重要な生命材料であるRNAを化学的に生成するには、「乾燥」が必要だと考えられています。そこで山岸先生は、生命が生まれたのは深海ではなく、水量が増えたり減ったり、乾いたり湿ったりがくり返される「陸地の温泉付近」が適していると考えています。」なのだとか。
 お二人の考え方は「生命」の定義に関しても違っていて、例えば「生命に必要な3条件」については、高井さんが、1)エネルギー、2)元素、3)有機物とするのに対し、山岸さんは、1)膜、2)エネルギー、3)情報を伝える核酸の3つとしています。実は、「生命」の定義自体、まだ定まったものはないようです。
 このように、生命の誕生に関して、まったく違った考え方で研究している二人の対談なので、その根拠となる科学的な事実などの説明が具体的で分かりやすく、いろんな意味ですごく勉強になる本でした。
 すごくわくわくさせられたのが、「第6章 地球外生命は存在する!ではどこに?」以降の、「宇宙」と生物の話。
 太陽系の中で地球外生命が見つかるとしたら、火星か、液体状の水が存在する土星の第二衛星エンケラドス、木星の第二衛星エウロパや第三衛星ガニメデが、最も可能性が高いのだそうです。
 なかでも火星には、もしかしたら微生物がいるのかもしれません。この本には、次のような話がありました。
「現在では「火星の表面にはかつて液体の水が存在した」こと、さらに「かつて、温暖湿潤な気候が長期間保たれていた」ことなどもわかってきています。つまり、今から約40憶~30憶年ほど前の火星は、地球と同じように生命が存在していたとしても不思議ではない環境だったわけです。このような探査結果から、「かつての火星には、生命が存在していたのではないか」という考えが普及してくるようになりました。」
 ただし気圧の低い火星では、ほとんどの場所で水が氷から直接水蒸気になってしまうそうで、液体の状態が期待できるのは高度の低い渓谷や地下だけのようですが……。NASAの探査機などで明らかになってきた火星の環境調査によると、火星は過酷な環境ではありますが、「火星の土壌に地球の微生物を持っていっても、生きていられるかもしれない」ことが分かってきたようです。
 さらに、「第7章 アストロバイオロジーの未来」には、月の周りに宇宙ステーションをつくるという「ディープ・スペース・ゲートウェイ」など、まるでSFのような計画が進行中だということが書かれていました。
 なかでも驚かされたのが、「ブレイクスルー・スターショット計画」。地球から最も近いハビタブルな惑星であるケンタウルス座α星の惑星へ、数千個のレーザー推進の宇宙ヨットを送り込む計画だそうです。
「高井:ケンタウルス座α星の惑星は太陽系から4.37光年も離れているので、現在最速の探査機でも3万年はかかる計算です。」
「山岸:そこでブレイクスルー・スターショット計画では、4×4メートル程度の帆と、重量4グラム程度のICチップを搭載した宇宙ヨットをレーザーを使って加速し、飛ばそうとしています。この方法だと、理論的には光の20%の速度まで加速できるので、約20年で到達できるというのです。
 また、このヨットにはカメラと通信機が搭載されているので、到達後に撮影した画像を地球に向けて送信すれば、4年程度で画像が地球に届きます。したがってロケットを打ち上げてから24年後には、いちばん近いハビタブルな惑星の写真が入手できるというわけです。ただし、その開発に20年かけようとしています。」
 ……マジですか……。生きているうちに、ぜひその画像を見たいものだなーと期待させられました。
 さて、これからの生物学は、「アストロバイオロジーの時代」だそうです。アストロバイオロジーとは、宇宙で生命を探すことを目的としているだけでなく、生命の本質を探るための学問なのだとか。
 将来は、人間が地球外へ移住するなんてことも実現するのかもしれません。
「山岸:もし本当に地球外へ移住するとしたら、人間が生きるための条件がある程度揃っている火星がいいでしょう。月には、水もなければ二酸化炭素も存在しません。そのような場所を開発するのは、費用的にも労力的にもコストがかさみます。」
「高井:月には、有人探査基地を置くのがいいでしょう。そうすれば、そこを中継基地にして、遠くの惑星まで人間を送ることができるのではないでしょうか。また、人類が宇宙へ行くときには、宇宙に地球の生物を持ち込んで、他の惑星や衛星の環境を汚染しないことや、あるいは宇宙から地球へ生物を持ち込まないようにするための「宇宙検疫」が必要です。もし月に中継基地をつくることができれば、そうした問題も比較的簡単に対処できそうな気がします。」
「山岸:宇宙を探査する場合、ロケットが地球を飛び出すまでに最もエネルギーを消費しますから、その点からも月に有人探査基地があると有利ですね。(後略)」
 ……SFみたいな話が、まさに現実に近づいているんだなーと感じせられ、わくわくさせられると同時に、生物・進化や宇宙に関する最新情報を学べる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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