『コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学』1990/12/1
G.M.ワインバーグ (著), 木村 泉 (著), ジェラルド・M・ワインバーグ (著)
コンサルタントの現実の姿を、ユーモアまじりに教えてくれる本です。
「まえがき」には次のような記述がありました。
「コンサルタントの仕事とは、私の定義によれば「人々に、彼らの要請に基づいて影響を及ぼす術」というものである。人々はある種の変化を望み、またはある種の変化を恐れてコンサルタントの手助けを求めるのである。」
実際にはコンサルタントと依頼主の関係はかなり微妙なもののようで、ワインバーグさんは、アドバイスしてあげたのに腹を立てられて攻撃されるという経験を何度もしたそうです。だから、この本は「精神の正常さを取り戻すために」書いたのだとか。次のような記述もありました。
「だが私は、たいていのときは、その非合理性に耐えられる範囲において、依頼主との直接のやり取りを楽しみにしてきた。私がこの業界にとどまるためには、選択の余地は次の二つしかないように思われた。
1)合理的であり続け、発狂する。
2)非合理的になって、気違いと呼ばれる。
長年にわたって私は、このみじめな両極の間を行きつ戻りつしていた。だがついに私は、第三の道があることに思い至った。それは
3)非合理性に対して合理的になること
だった。この本は、影響してくれという要請をめぐる、一見非合理的な行動にひそむ合理性に関しての、私の意見を述べたものである。それがコンサルタントの秘密である。」
……こんな感じの辛口ユーモアがいっぱい。特にコンサルタントの経験をした方には、「そう、こういうのあるある、分かるなー」と感じる記述をたくさん見つけれられると思います(笑)。
でも……実を言うと、かなり読みにくい本でした。自らの長いコンサルタント経験を通して感じたことや学んだことを独特のユーモアにくるんで語ってくれるので、「ああ、そうか!」とキラリと光る「ためになる話」もあるのですが、いまいち話の本質がつかみにくい記述もかなりたくさんあって、もやもやさせられる部分もありました(汗)。うーん、なんか分かりにくいなー……と苦しみつつ読み進め、そうか、これはコンサルタントの秘密を語ってくれる「ビジネス書」ではなく、ユーモア交じりの「エッセイ」、つまり文学なのだなと捉え直すことで、なんとか最後まで読み通すことが出来ました(笑)。
それでも、全体としては「読んで、とても良かった」と思います。
例えば、「第1章 コンサルタント業はなぜ大変か」では、「コンサルタントの法則」として、「依頼主がどういおうとも、問題は必ずある」などの原則とともに、「決して10パーセントより多くの改良を約束してはいけない」などの驚くようなアドバイスを読むことが出来ます。実は依頼主は、問題を抱えているにも関わらず、大きな問題を抱えていることを認めたがらないという矛盾した心理を持っているようなのです。だからこの「10パーセント」には次の意味があるようなのです。
「10パーセント以上だと、依頼主は問題があることを認めざるをえなくなり当惑してしまう。」
だから「もしたまたま10パーセントを超える改良をしたときは、それが決して気づかれないように手を打つこと」なのだとか!
こんな感じで、「現実的に役に立つアドバイス」を随所に見つけることが出来るエッセイなのでした。
また、最後の方になると、箇条書きを利用した分かりやすい「ビジネス書」になってきます。「第11章 サービスの売り出しかた」には、最後に、次のような「まとめ」がありました。
「1)コンサルタントは二つの状態のどちらかにある。一つはI状態(ひまな状態)、もう一つはB状態(忙しい状態)である。
2)依頼主を獲得する最良の方法は、依頼主を持つことだ。
3)週に少なくとも一日は、人目に触れるために使おう。
4)自分にとって依頼主は、自分が依頼主にとって重要であり得るよりずっと重要だ。
5)一人の依頼主の仕事が、仕事全体の四分の一より多くならないようにしよう。
6)マーケティングのための最良の道具は、満足した依頼主だ。
7)最良のアイディアは彼らにやってしまおう。
8)自分の卵を入れると、味がよくなる。
9)時間の少なくとも四分の一は何もしないで過ごそう。
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また「第13章 信頼を勝ち得るの法」の次の記述も真実をついていると思います。
「信頼を勝ち得るのには何年もかかるが、失うのは一瞬だ」
「人は、なぜあなたを信頼しなくなったのか、いってはくれない」
「信頼を勝ち得るための策略とは、すべての策略を避けることだ」
「決して不正直なことをしてはいけない。依頼主がそうしろといったときでさえ。」
……独特なユーモアのために誤解しそうになる時もありましたが(汗)、全体としては、コンサルタントは「依頼主のために誠実な仕事をすることが一番大事だ」と言っていたのだと思います。
自らの経験や他の人からの参考になる話がたくさん掲載されているので、コンサルティングを行う上で何か困ったことが起こった時には、この本からヒントを拾い出せるような気がします。例えば、次のようなものを。
「第6章 わなから逃れるの法」から、「知らなくても怪我をするとは限らないが、思い出さないとすれば間違いなくやられる。」、「惨事はあり得ないという考えは、しばしば考えられない惨事を引き起こす。」など。
「第9章 変化を安全に起こすの法」から、「みんなを信頼して、でもカードは切るんだ」、「彼らに何でも好きなことをやらせておこう。ただし彼らに、自分たちの身を守るすべを教えておこう。」など
「第10章 抵抗に出会ったら」から、「抵抗の無意識的源泉を明るみにだすための一つのすぐれた方法は、代案がどれくらい魅力的か見る、というものである。」など。
……実践的に役に立つ「コンサルタントの秘密」をいろいろと教えてくれる本でした。読みやすくはありませんでしたが(汗)、珠玉の知恵がつまっているので、特にコンサルタントをしている方は、ぜひ一度、読んでみてください。お勧めです☆
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