『イラストで読むAI入門』2019/3/6
森川 幸人 (著)

 AIはどのように私たちの生活に入ってくるのか? AIの歴史から進歩の過程まで、数式を使わずに解説してくれる本です。
 ところでみなさん、「ファジー(曖昧な線引きでの制御)」って言葉、覚えていますか? この本の「はじめに」には、次のような記述がありました。
「マイコンもファジーも当時のバズワードでしたが、最近ではいっこうに見聞きすることがありません。しかし、一時的な流行で終わったというわけでもありません。マイコンもファジーも、すでにどのメーカーの扇風機、エアコン、炊飯器、冷蔵庫、車にも当たり前の機能として組み込まれており、今さら売り文句にもならないため、広告に使われなくなったに過ぎません。」
 ……確かに、そうですね。森川さんは、今後AIも同じように「当たり前に必要な機能」として搭載されるようになるだろうと予測しています。恐らく今後、私たちは、AIが実際にどのように作られ、どのように機能するかを知る必要もなく、AIを組み込んだ機械を使っていくことになるのでしょう。……だったら、このような本を読む必要もないのでは? と思わなくもなかったのですが(汗)、AIのことはまだよく分からないけど、流行になっている(?)今のうちに、だいたいの機能を知っておきたいと考えている人には、この本は最適なうちの一つなのではないかと思います。ただ、タイトルに「イラストで読む」とある割には、イラストはそれほど多くなかったように感じてしまいましたが……(汗)。
 えーと、この本には、AIに関する簡単な基礎知識とともに、最新の状況の解説もあります。あまり技術的な解説ではなく、「何ができるか」など利用者の立場からの解説が多いので、一般の人にも分かりやすいと思います。
 個人的に、へえー、そんなところまで進んでいたんだ!と感心させられたのが、人間の専門家も打ち負かすまでに至っている「アルファ碁」の最新動向。
「アルファ碁はすでに人間の処理能力を超えた手を考え、人間に勝つようになっています。」
「しかし、アルファ碁ゼロの進化版で、アルファゼロというモデルが出てきました。これは囲碁に限らずチェスでも将棋でも学習できます。ターゲットがどんなルールであろうと、「教師なし学習」で人間が教えることもないので、AIはやりながら覚えてしまうわけです。この先、アルファゼロであれば、問題に特化する必要などありません。」
 ……AIのアルファ碁は、すでに人間とではなく、同じAI同士の対戦でどんどん勝率をあげていっているようですが、AIが強くなることは、悪いことばかりではないようです。本書には次の記述がありました。
「むしろアルファ碁の知恵を借りることで、人間の打つ手も豊かになってきています。AIを人間が使いこなすことで、可能性はどんどん広がってきているのです。」
 AIと人間は、今後、お互いの短所を補い、長所を伸ばすような形で共存していけるといいなと思います。
 さて、この本の中には、ちょっと怖いなと思わされる最新動向もありました。それは、手書き文字や声や表情も、AIが人間の真似を出来るようになってきている、ということです。
「今ではかなり、動画を自在に加工できるようになっていて、あなたの動画や音声データがあれば、あなたがいってもいないことを喋っているような自然な動画がつくれてしまいます。」
 これって、「誰でも騙せるようなフェイクニュースを簡単に作れる」ってことにつながりますよね?
 さらに次のような記述もありました。
「周りの状況から推測するだけではなく、現在は、そこまで走ってきた車の映像からこの後どうするか、スピードを落とすのか、スピンするのかなどを推測し、推測に基づいた新しい映像をつくることまでできるようになっています。今はまだわずか数秒程度で、画像の精度も低いのですが、そのような未来予測ムービーがつくれる時代になってきています。
 未来予測ムービーの精度が上がっていった先には、監視カメラの映像ですら信用できなくなる、といった事態が出てくる可能性があります。文字認識機能の延長線上にくるサインの偽造、フェイク動画、実際の映像をもとにした推測映像、そのようなものがつくれるということは、人間は今まで「証拠」としていたものをほとんど失ってしまうということです。」
 うーん……これ、今後、犯罪捜査や裁判などで大問題になりそうですね。現在、犯罪捜査に大活躍してくれている「防犯カメラ」や「ドラレコ」の映像が、簡単に偽造できるようになるとしたら……再び「防犯カメラ」や「ドラレコ」のない時代に逆戻りするのと同じになってしまうのでしょうか……。
 AIの能力はとても強力なので、今後、私たちの生活になくてはならないものになることは間違いないでしょう。強力過ぎて危険性も秘めているAI技術を、どう使いこなしていけばいいのか、今後も注視していきたいと思います。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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