『[ヴィジュアル版]世界植物探検の歴史: 地球を駆けたプラント・ハンターたち』2018/7/25
キャロリン・フライ (著), 甲斐理恵子 (翻訳)

英国王立植物園(キューガーデン)所蔵の美しい図譜とともにたどる、過去と現在のプラント・ハンターたちの植物探検の歴史です。
現在ではホームセンターなどで世界中の植物を手軽に買うことが出来ますが、これは植物採集と栽培を手がけた多くの先人たちのおかげなのです。今ほど海運が発達していなかった時代、探検家たちは命がけで遠隔地へ行き、薬用・食用に役に立つ植物を採集してきました。その利権をめぐって国同士が争い、高価なスパイスなどを得るために、大国は遠征航海に乗り出し植民地を拡大していきました。植物は歴史を大きく動かしてきたのですね。
この本を読むと、有用で美しい植物を巡る探検物語を後押ししたのは、進歩発展を願う人間の素晴らしい創意工夫だけでなく、利権を得ようとする醜い欲望でもあったことを再確認させられます。この本を読むまでは、イギリスの貴族の趣味が「ガーデニング」だと聞くと、へえー、意外に庶民的だなーなんて思っていましたが、(汗)、歴史的に考えると、「庶民的」どころか、まさに「貴族的」としか言いようのない趣味だったことに気づかされました。「植物採集」には大変な費用がかかり、採取した植物を調べるための植物園(薬草園)には広大な敷地、栽培管理者、研究用の施設、研究者が必要で、「維持・研究費」も膨大だったのです。その一方で、有用な植物の栽培に成功すれば、それが生み出す儲けも莫大なものになりました。
「植民地の試み」という章では、1770年代に宣教師にして園芸家のピエール・ポワブルが、モルッカ諸島でスパイスが生る植物を手に入れて、パリの植物園ではなく、フランス領フランス島(現モーリシャス島)で栽培するという素晴らしいアイデアを思いつき、それに成功した結果、オランダが独占していたスパイス貿易があっという間に壊滅したというエピソードが紹介されています。イギリスもこのアイデアをすぐに取り入れ、植民地が拡大していったそうです。
また1600年に誕生した「イギリス東インド会社」は、インドの統治者をしのぐほど強大になってインドの社会を大きく変えただけでなく、中国との茶葉取引で支払のための銀塊入手が困難になると代わりにアヘンを売り始め、300万人以上の中国の人々がアヘン中毒になってしまいました。しかも東インド会社は中国から茶葉を狡猾に窃取し、インドで生産させることで中国の茶葉産業支配を崩そうとし、現在ではインドが世界最大の茶の生産地にして消費地となっているそうです。……人間って、欲望のためには恐ろしいことをするものですね。
この本には他にも、医学的に有用な植物の栽培や、チューリップ・バブル(球根価格の高騰と暴落)、希少植物の保護、現在行われている「未来のための種子の備蓄」など、さまざまな植物を巡る歴史が紹介されていて、とても勉強になりました。大型で少し高価な本ですが、ハードカバーの装丁やフルカラーの植物図がとても美しくて、これが本棚に一冊あると、知的イメージがアップしそうです(笑)。眺めてみてください。