『Newton別冊『筋肉と技の科学知識』 (ニュートン別冊)』2018/1/18

トップアスリートたちがみせる驚異の肉体と技術の秘密にせまる本です。
全体は次の4部構成です。
1 世界記録の科学
2 変化球の科学
3 運動能力向上の科学
4 スポーツと健康の科学

「1 世界記録の科学」では、フィギュアスケートや短距離走、マラソン、水泳などのトップアスリートの肉体の秘密にせまります。トップアスリートの写真も素敵ですが、道具やグラウンドの状況も知ることが出来ます。
「2 変化球の科学」では、野球やサッカー、テニス、ゴルフ、卓球といった球技系のスポーツ選手が駆使する「変化球」のしくみを徹底検証。ボールは「マグナス力」などの力で変化するようです。
「ボールは空気から力を受けないかぎり、重力の影響を受けて、放物線をえがいて自然に落下します。一方、バックスピンがかかった直球には、上向きにマグナス力がかかります。直球とは、上向きのマグナス力によって、重力をある程度打ち消して、まっすぐに近い軌道で進む球なのです。「自然な軌道(放物線軌道)からずれている」という点では、直球も変化球だといっていいでしょう。」
……直球も「変化球」だったんですね! 確かに、本来、ボールは「まっすぐ」ではなく、「放物線を描いて」飛ぶはずです。このマグナス力は、野球だけでなく、サッカーなどの他の競技でも重要な役割を果たしているようです。
また「揺れる魔球」は「無回転」のことが多いようで、「無回転」だと空気の流れ(渦)の影響が強くなるので、実は、投げた(蹴った)本人にも正確にどこに行くかは分からないようです(汗)。
野球やサッカーなどの名選手たちは、ボールの回転速度や回転軸を自在に操る大変な技術力があることを知って、あらためて感心させられました。うーん、やっぱ、凄いわ……。
ちなみに、この「2 変化球の科学」では、ゴルフでロングショットを打つ秘訣も教えてもらえて、出来るかどうかはともかく(笑)、参考になりました。
「(ゴルフボールを)14°ほどの小さな角度で打ち出すと、マグナス力の傾きも小さくなり、ブレーキとして作用する力がよわくなります。しかもマグナス力が、ボールを持ち上げる作用も45°の場合とくらべて大きいので、ボールは落ちにくくなるのです」なのだとか。
さらに「3 運動能力向上の科学」では、なんと「ミトコンドリアは極小の水車をまわしてエネルギーの運び手をつくっている(ATP合成酵素が回転してATPをつくる)」などという衝撃の最新研究が紹介されていました(水力発電みたい……)。
そして一般の人にとって最も役に立つのは、「4 スポーツと健康の科学」でしょう。
「軽い負荷で速筋を効率よくきたえるためには、加圧トレーニングやスロートレーニングが効果的」だとか、「筋肉痛の予防には「プレコンディショニング(事前調整)」が有効で、プレコンディショニングと軽いスクワットなどを組み合わせると、さらに効果が高まる」とか、参考になる情報がいっぱい。
「ケガをしたとき、傷口は湿らせたままにするほうが良い(傷口では、細胞や化学物質がさまざまな反応をくり広げることで治癒が進みます。そういった反応は、水分(体液)があってこそおきるもので、傷口を乾かすと、そうした反応をおこす成分が取り除かれてしまううえ、乾燥によって細胞が死んでしまう)」「消毒薬を傷口に多用してはいけない(強い消毒薬は、自然治癒に必要な細胞を細菌と共に殺してしまうので、傷口は水道水で洗うだけのほうがいい)」などという情報は、自分が抱いていた古い知識と少し違っていたので驚きました(汗)。
トップアスリートの「筋肉と技」の秘密だけでなく、「魔球」の科学的な解明や、健康のための運動の方法まで知ることが出来て、とても読み応えがある本でした。ぜひ読んでみてください。