『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』2018/1/18
中野 信子 (著)

なぜ人間は一見、非生産的に思える「妬み」という感情を他人に覚え、その不幸を喜ぶのか……現代社会が抱える病理の象徴「シャーデンフロイデ」の正体を考察している本です。
「「シャーデンフロイデ」は、誰かが失敗した時に、思わず湧き起こってしまう喜びの感情」なのだそうです。そして実はこの感情は、愛情ホルモン、幸せホルモンとも呼ばれる「オキシントン」という脳内物質と深い関わりを持っているのだとか。
……え? 「安らぎと癒し」を与えてくれる「オキシントン」が、「妬み」にも関わっているの? とすごく意外に感じましたが、「奇妙に感じられるかもしれませんが、愛はそれだけでは成立せず、深い憎しみがこれを裏打ちしています。」なのだそうです。人間は大人になるにつれて前頭前野が発達し、社会性が構築されていきます。そしてこの向社会性をより高めるのが、「愛と絆のホルモン」オキシントンで、人々に愛や安らぎをもたらすだけでなく、「社会に悪影響をあたえそうなもの」「目立つもの」を排除させようともするのだとか。
「オキシントンによる「愛」があふれ出たときに、人は思いやりに満ちた行動をとる一方で、ひどく不寛容にもなっています。「あなたのため」という愛は、実は自分の脳の快楽のためであり、自分の所属集団を守るためであり、それを阻む者を許すことはできないからです。ここで「愛は美しく、正しい」という思い込みにより思考停止すると、愛の支持する不寛容に気づくことはできず、多くの人を傷つけることにつながります。」
……この本は、「倫理的に「正しい」人ほど、暴力的で破壊的(残酷な行為に抵抗がない)」とか、「宗教的な家庭で育った子どもは、非宗教的な家庭の子どもに比べ、利他性が低く他人に批判的で不寛容なことがわかった」とか、人間の心理学研究で判明してきた意外な事実をいろいろ教えてくれます。
そして「人間はもともと戦うことが好きなのです。そしてそこに「正しい」が加われば、どのような残虐なことも実行できてしまうのが恐ろしいところです。」のだそうです。……これに賛成したくはないけれど、人間(というか生物)は生存競争を繰り広げた末に生き延びてきたので、戦いが好きかどうかはともかく、潜在意識内に他人への「闘争心」がこびりついていることは確かなのでしょう。
「娘を支配しようとする母親も、ネットで誰かを攻撃しまくる人も、いじめを行う子どもも、自分以外の存在に興味があり、「その人のためを思って」「よかれと思って」制裁を加えます。」
……いじめっ子が本当に「よかれと思って」制裁を加えているのかどうかは分かりませんが、「優れた人が妬ましい」「目立つ人を叩きたい」という心理が、実は「自分の社会を守りたい(貢献もせず利益だけを貪る人を排除したい。さらには異端を排除したい)」という気持ちから発生しているのではないか、という考察には、なるほど……と考えさせられました。
現実問題として、「いじめ」や「ネット叩き」は確かにこの世の中に存在しています。それに目を背けたまま、人間の「優しさ」や「美しさ」だけを伸ばそうと願っても、上手くはいかないのでしょう。
「「よかれと思って」という気持ちと、その帰結とは、必ずしも方向性を一致させないのだということは、意識しておいたほうがいいでしょう。東に向かって全力疾走しているつもりが、西に向かって暴走していた……愛とはそうした矛盾に満ちたものと言えるかもしれません。時には美しい「愛」という情動の裏側にある闇を覗き込むことで、私たちの見ている世界がどれだけ正義や愛によって曇らされているのかを、感じてみる必要があるのではないかと思っています。」
……「愛と憎しみが表裏一体」であることは、「生物学的な現実」と受け止め、誰かに「嫉妬」を感じるときには、「脳内物質オキシントンが暴走しているのでは?」と考えて反省してみたいと思います(笑)。
考えさせられることの多い本でした。あなたは、どう感じるでしょうか? 読んでみてください。