『東大生クイズ王・伊沢拓司の軌跡 I ~頂点を極めた思考法~』2015/10/20
伊沢拓司 (著), セブンデイズウォー (編集)

開成高校時代に『高校生クイズ』の第30回、31回を連覇し、現在(2015年)は東京大学に通う若きクイズ王・伊沢さんが、クイズの頂点を極めた思考法と勝利の方程式を初めて明かしたエッセイ集。中学から高校にかけての自伝で、クイズに打ち込む青春が、克明に描かれています。おまけとして「秘蔵クイズ問題500問」もついています。
……開成・東大・クイズ王。へー、凄い大天才なんですねーと口先では褒めつつも、内心ではどうしても(ケッ……)と感じてしまうわけですが(汗)、この本を読み進めるうちに、彼は単なる天才ではなく、努力する天才(チェッ……)であることが分かってきてしまいます。努力する天才なんて本当に最強ですよね(……あーあ)。でも、なんと本書の中には、彼以上に最強の田村さん(開成・東大・クイズ王)まで出てきて、彼はモテモテのイケメンのスポーツマンなのでした(…………)。
そんなわけで、本書に出てくるのは、超一流校・開成高校を始めとする全国の一流高校生(先輩)やクイズ好きの大学生・社会人ばかりで、嫌なヤツだらけかと思いきや、ほぼ全員がいい奴だという……気持ちがいいほどスポ根的な部活動の記録なのでした(笑)。
ところで、私自身は「パズル大好き」ですが、「クイズ」の方は、それほど好きではありません。「クイズ」はどうしても「知識」の多寡が問われるものが多く感じられて、記憶力に自信がない私にとっては、苦手分野だからです(汗)。それに実を言うと「知識量」には、それほど価値を置いてもいません。パソコンなどで手軽に「知識」を調べることが出来る現在、「知識」より「判断力・推理力」の方が大事だと思っているからです。しかも脳生理的に考えても、脳細胞や神経を効率的に働かせるためには、無駄なエネルギーを使わない方がいいと信じているので、一般教養をはるかに超える「無駄知識」を覚えようという気持ちが、そもそもありません。だからクイズ番組などで難問を次々撃破していく天才たちを見ても、内心では(確かに凄いけど、無駄な努力をしている残念な人々)だとも思っていました(半分はヤッカミ)。
ところがこの本を読んでいくうちに、「クイズ」は単なる知識量の戦いではないことを知りました。もちろん知識も必要ですが、「早押し」する度胸、「質問の先を読む推理力」、対戦相手の傾向の分析力など、さまざまな能力が必要とされるのです。
伊沢さんはクイズを通してこれらの能力をどんどん磨いていくのですが、最も感心させられたのは彼の「社交性」。クイズ好きというのは、私と同じような「オタク」ではないかと思っていたのですが、伊沢さんは外部との交流が本当に多くてビックリ☆ 様々な大会に積極的に参加し、そこで知り合った人々の繋がりをもとに学生や社会人など多くの人との交流を重ねることで切磋琢磨しているのです。うーん……タダモノではない。
負けると素直に悔しがり、「勝負にこだわる」姿勢にもむしろ好感を覚えます。実は、パズル好きの私が「クイズは嫌い」なのは、この「勝負感」がとにかく嫌で、他人に先んじて「正答」した時の自分のドヤ顔さ加減も嫌だし、「誤答」した時の恥ずかしさはもっと嫌……だったのですが、伊沢さんは、この「誤答の恥ずかしさ」について、次のように語っています。
「(前略)いろいろなクイズ番組を踏んできて、僕が「テレビで勝つ」ために重要なことだと断言できるのは、カメラの前で誤答することを恥ずかしがらないことだ。(中略)誤答の可能性はどんな状況、どんな問題でも生じてくる。しかしながら、「誤答することを恥ずかしく思う」ことは、勝負の状況や問題とは何ら関係のない枷であり、「慎重に押すこと」とはまるで違う、プラスの影響が何もない愚行とまで言い切れる。(後略)」
流石だ。流石過ぎる……。とは言っても伊沢さん自身、もちろん「誤答の恥ずかしさ」を感じることもあったようで、それで失敗もしてきたようですが……。
それにしても、伊沢さんたちクイズ好きの人々の知識量は本当にハンパなく、こういう天才たちの脳って、どういう構造してるんだろ? 私が「無駄な知識を覚えずにエネルギーの有効活用(?)」を図ってきたのは、実は「脳を怠けさせて記憶域の脳細胞を鈍くしてきた」だけだったのだろうか……もしかして無駄知識は「記憶域を持続的に活性化」させるのか? 「記憶域の大きさは無限」なのか? と不安に感じていたところ、「あとがき」で次の記述を見つけて、なんとなくホッとしました(汗)。
「クイズは「忘れる」からこそ楽しいのだ。これが僕の答えです。『abc』が過ぎて暫く経つと、『abc』前に詰め込んだ知識の一部は僕の中から剥がれ落ち、また一から覚えなおさないといけない水準にまで低下しました。昔覚えたと思って押したけれど実は曖昧で正解できなかったり、常識的な単語がスポッとその時だけ抜け落ちている、なんてこともあります。忘れているから、勝負は油断できない。(後略)」
……意外に「普通」のところもあるようです(笑)。それでも、こういう大天才の記憶域はどうなっているのか、すごく興味があるので、そのうちfMRIなどの脳活動検査を受けて欲しいなとも感じました(それで、みんなを「天才」に導いてよ)。
天才と呼ばれる若者が、普段どのように生活(努力)しているのかがよく分かる本でした。数々のクイズ大会での体験談や、TVのクイズ番組出場の様子が克明に記録されているので、クイズの世界を知る上での格好の指南書にもなると思います。また、「勝負の世界で、いかに準備し心を整えるか」についてもすごく参考になるので、クイズだけでなく各種のゲームやスポーツなどの勝負事に挑む人にとっても、励みになり、多くのヒントを見いだせると思います。
ただ……『東大生クイズ王・伊沢拓司の軌跡 I ~頂点を極めた思考法~』というタイトルから、東大合格の秘訣(東大合格のための思考法)を学びたいと思う方にとっては、あまり参考にならないのではないかと思います。まあ、「東大に合格」するためにも、「クイズ王」になるのと同じように、「勉強して準備」し、「合格への確率を上げる方法を考えて対策」すればいいのだとは思いますが……。
「努力する天才」の姿に、叱咤激励された思いがして身が引き締まる本でした。ぜひ読んでみてください。