『歴史を変えた100の大発見 脳 心の謎に迫った偉人たち』2017/12/2
石浦 章一 (監修, 翻訳)、大森 充香 (翻訳)

意識はどのようにして生み出されるのか? 脳と心の謎に迫った100の物語を通じて、脳に関する歴史を辿る本です。
「はじめに」で、脳の機能解剖学など、現在、解明が進みつつある脳の中身がイラストで概説されます。
その後、「1 頭蓋骨の穴」では、石器時代に穿孔術を受けて穴のあいた頭蓋骨の写真が、解説とともに紹介されます。このことは、先史時代から私たち人間が「脳は特別なもの」と考えていたことを示しているのだとか。そして「2 古代エジプト人の脳」では、心臓が残っているのに脳は鼻から掻き出して捨てられていたというミイラの状態から、彼らが脳をあまり重要視していなかったことが分かるのだそうです。
このように、「脳」に対する私たちの考え方などが、石器時代から時系列に沿って紹介されていきます。その中には、かなり怪しい考え方や、すでに間違っているとされているものもありますが、脳に関して明らかにされてきたことを、このように少しずつ読んでいくことは、「脳」についてじっくり考えるいい機会にもなり、また内容的にも、すごく参考になりました。
ちなみに「間違っているとされている」考え方の一つには、19世紀になる頃のガルの「骨相学」も含まれています。骨相学によると、性格は頭蓋骨の形状に現れるそうです。この骨相学による脳地図は、一見すると現在の脳地図にも似ていますが、彼の考え方は、一般大衆には支持されても、科学界では最初から疑問視されていたのだとか。失われた機能は、たとえ脳の一部が取り除かれても取り戻すことが可能だから、というのが主な理由でした。ガルは間違っていましたが、彼の脳地図は、今日の脳地図作成の原動力になり、この進展の一部は、ガルが行った定期的な解剖学的研究のおかげでもあるそうです。
ガルの例でも分かるように、脳に関しては、正しい知識が得られるようになったのは、ごく最近のことですが、大昔から人間は「脳」に関心があったことも確かなようです。とても興味深かったのは、ルネサンス時代の話。「15 ダ・ヴィンチのろう細工」では、ダ・ヴィンチが頭蓋骨と脳から「脳の立体模型」を作った話が紹介されますし、なんとミケランジェロも、密かに脳に強い関心を抱いていたようなのです。「16 ミケランジェロの隠された脳」では、彼の最も有名な作品「システィーナ礼拝堂天井画」の中でも最も有名なシーン「アダムの創造(神とアダムが腕を伸ばして指を触れ合わせようとしている瞬間を描いたもの)」で、神たちの背後に「脳」が描かれているようなのです! 神たちは赤い布に覆われているのですが、これが脳の断面図に見えます。下にたなびく緑色のスカーフは椎骨動脈があるべきところ、智天使の腕は視覚神経を、その脚は下垂体、そして天使たちの脚は脊髄を形成しているのだとか! この天井画はすごく好きな絵だったのですが……脳が描かれていることには、まったく気づいていなかったので、すごく衝撃的でした。そう言われてみると……もう、脳にしか見えません……。
そして、本の後半になると、「89 認知行動療法」「90 活動電位」「91 睡眠サイクル」「92 記憶痕跡」「93 昏睡」「94 ポジトロン断層撮影法(PET)」「95 アイデンティティー」「96 機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)」などで、最新の脳科学の知見も紹介されていきます。
さらに「101 脳の基礎」で、これまでの内容をまとめて、脳と体の相互作用とか、全身を通るさまざまな神経回路などについての簡単な解説があり、「ほとんどの人が右利きなのはなぜ?」など「まだ答えが見つかっていない問題」までが紹介されていきます。
最後には「偉大なる神経科学者たち」「神経科学の歴史年表」「索引」もあるという、「脳の謎に迫る偉人と歴史」に関する総合的な図鑑になっています。
イラストや写真も豊富で、すごく参考になる本なのですが、価格も3,800円+税と高価で、美術の本のような上質紙を使ったハードカバーの本で、かなり重いのです。もう少し軽くて安かったら、もっと良かったのになーと思わなくもありませんでした(汗)。内容はすごく参考になるので、この値段でも買って損はないとは思いますが……。
脳科学の歴史に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。