『土木技術の古代史』2017/9/15
青木 敬 (著)

日本各地の古墳や名だたる仏教寺院・宮殿建築を生み出してきた伝統的工法を、豊富な発掘成果とともに紹介し、古代の先端技術から、当時の人々が目指した社会を考察している本です。
古墳については、あまり詳しくはないものの、群馬県高崎市の保渡田古墳群を訪れたことがあり、古代の日本人の凄い技術力に驚かされました(保渡田古墳群=3つの前方後円墳からなる古墳群、広大な二重の堀を巡らし多量の埴輪を並べていた)。
古墳の築き方には時期や地方で様々な違いがあるようで、その土木技術を調べることで、当時の社会情勢を推定することが出来るそうです。古墳時代の土木技術はかなり高く、排水まで考えられた盛土で墳丘が作られた古墳もあるとか(新潟県・城の山古墳など)。
この本では、「土を盛る土木技術」に着目し、盛る技術がどのように変化し、またなにをきっかけに変化したのか、その歴史的な背景をたどることで、当時の社会情勢を推察しています。日本各地の古墳や名だたる仏教寺院・宮殿建築を生み出してきた伝統的工法を、豊富な遺構の発掘成果とともに紹介し、中国・朝鮮半島の事例から大陸の影響をたどるのです。「土木」の観点から、当時の「政治的支配」や「外交」などを明らかにしようという試みはとても面白く、青木さんの考察にもすごく納得できました。古代の「土木技術」は、いろんなことを教えてくれるのですね☆
また「版築(はんちく)」などの古代の工法の解説も、とても興味深く読みました。「版築」とは中国古来の土壁や土壇の築造法で、板枠の中に土を盛り、一層ずつ杵で突き固めていく方法のことですが、その土の盛り方にも様々な方法があり、粘土・砂質土など違う種類の土を交互に盛っていく方法や、大きな礫などを使う方法などの工法の違いから、大陸のどこの工法を参考にしたかが分かるのだとか(南朝・百済系統、北朝・新羅系統など)。
さて、古代の土木技術も、時が経つとともに合理化が進んでいったようですが、単純に「合理的」にだけ考えてはいけないのかもしれないと、青木さんは指摘しています。実は、「薬師寺東塔」には、合理性だけでは説明できない技術が使われているそうです。
「薬師寺東塔は、礎石より下の版築よりもむしろ礎石周囲の版築を強固に仕上げる。これは、構造的にいえば必要のない強化である。にもかかわらず、基壇の上面付近を強固にした理由とはなにか。本書では、教祖たる釈尊を奉安するきわめて神聖な空間を、ひときわ丹念に版築した所産とみた。つまるところ、合理性などを超越した信仰の存在を抜きにして寺院は語れない。」
……確かに、そうなのかもしれないと思いました。でも、もしかしたら「神聖な空間への敬い(信仰)」というよりも、単純に「作業員の交代によるもの」だったのかも。「版築」作業は土まみれになってしまう作業なので、礎石より下の版築は、より下級の作業員が担当し、建物に近くなる部分からは、建物の建築作業員と連携して働く、より上級の土木作業員が代わって監督指揮するようになったために、より丁寧に「版築」されたのかも……とも想像してしまいました(素人考え)。
「土木技術」から古代の社会を探る……とても面白く読めた本でした。「技術(モノ)」と「古文書(情報)」の両面から古代を探ると、その時代の実態をより正確に考察していけそうな気がします。古代史に興味のある方は、ぜひ読んでみて下さい。