『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』2017/6/10
ブランコ・ミラノヴィッチ (著), 立木 勝 (翻訳)

今世紀の世界的不平等の行方と、その帰結としての政治・経済情勢を予測した格差研究の本です。
タイトルの『大不平等――エレファントカーブが予測する未来』のエレファントカーブとは、表紙上部に描かれている象の形をした線形のことで、これは「グローバルな所得水準で見た1人あたり実質所得の相対的な伸び(1988-2008)」を示しています。このグラフは、中国などのグローバル中間層、そして、先進国内の超富裕層の所得が、ベルリンの壁崩壊からリーマン・ショックのあいだに急伸しているのに対して、先進国の中間層の所得がほぼ停滞していることを明瞭に示していて、このグラフから、最大の勝ち組はアジアの貧困層と中間層で、最大の負け組は豊かな世界(欧米、日本など)の下位中間層であることが読み取れるのだそうです。
そしてミラノヴィッチさんは、「クズネッツ波形」を導入して、不平等の長期的な流れを説明しようと試みています。「クズネッツ仮説」とは、「不平等は所得水準が非常に低いときには小さく、経済発展とともに拡大して、最後には所得水準の高いところで再び縮小すると考える」仮説ですが、近年はこの仮説に対して、「豊かな世界で所得の不平等が拡大している」などの反証があげられてきました。それでも、先進国での近年の不平等拡大について、代替となる筋道だった説明が他にあまりないので、現在でも使われているそうです。ミラノヴィッチさんは、この本の中で、このクズネッツの仮説に、「クズネッツ波形」ないし「クズネッツサイクル」という概念の導入することを試みています。この「クズネッツ波形」で、将来の不平等が予測できるのかどうかについては、正直に言ってよく分かりませんでしたが、ミラノヴィッチさんは、現状を次のように把握しているようです。
「近年はグローバルな不平等(どこに生まれるか)の方が、国内の不平等(社会階級)よりも大きくなっている。」が、「アジア諸国の平均所得の増加に伴って、各国間のギャップは縮まっている。」
そして経済面でのアジア諸国の躍進は今後も続くだろうと予測する一方、欧米社会ではいっそうの二極化が進むだろうとも予測しています。このあたりの予測は、現在の世界情勢からみて妥当なのではないかと思いました。その他、「雇用では家族的な背景とコネがものを言う」傾向が強まるとも予測していますが、これはあまり嬉しくないなと感じてしまいました。
さてミラノヴィッチさんは、「経済学の方法論は進歩している」と言います。そして世界が変わり、統合が進むにつれて、私たちが世界を理解するための考え方やツールは時代遅れになりつつあるので、グローバリゼーション時代の現実を見るための新しい方法が必要で、この本はその方向へのささやかな一歩なのだそうです。確かに、アップルのiPhoneなどが国を越えて「水平分業」されている現状を考えてみても、今後はさらにグローバリゼーションが進み、以前の経済学の考え方やツールでは分析・予測しきれない時代になっていると思います。今後も、この本のように「世界的じゅうのデータを分析する」必要性が高まっていくことでしょう。これだけの世界的データを分析するのは大変そうですが、今後は各国のデータもさらに充実していくでしょうし、コンピュータの能力も高まっていくと思いますので、このようなデータ分析が「より良い社会」への実現に役に立っていくことを願っています。
ミラノヴィッチさんは、今世紀および次世紀に、各国内およびグローバルな不平等を縮小していくうえで、決定的に重要だと考えることについても提示してくれています。
まず、国内不平等については、現在の所得への課税よりも親から子への資源継承(資本所有や教育水準)を平等化するほうがずっと大切だということ、そしてグローバルな不平等については、貧しい国々の成長を速めること、移民へのハードルを下げることが重要なのだそうです。……なるほど。
グローバルな視点から「不平等」を考察した本です。数多くの図表も掲載されていますので、せひ読んでみてください。