『世界史を創ったビジネスモデル (新潮選書)』2017/5/26
野口 悠紀雄 (著)

歴史上の国家を「企業」、その活動を「ビジネス」として理解すれば、新たな視点が得られる……ローマ帝国の盛衰、大航海時代の競争、さらには現代のAT&T、グーグル、人工知能……人類が経験してきた「成功」と「失敗」の数々から導き出される「歴史法則」を考察している本で、「第1部 ローマ帝国のビジネスモデル」、「第2部 フロンティア拡大というビジネスモデル」という二部構成から成っています。
え? ビジネスモデルとしてのローマ帝国? いくらなんでも古すぎない? とちょっと思ってしまいましたが(汗)、実は、ローマ帝国から学ぶことは多いそうです。なぜならローマ帝国は極めて長期間継続した国だから(帝政から最後の西ローマ皇帝廃位まで500年、東ローマ帝国滅亡まで1500年)。ある一つの体制が、これだけ広い地域をこれだけ長期間にわたって支配したことは、人類歴史上空前絶後だそうで、ローマ帝国が人類史上、最も成功したビジネスモデルであることは疑いようがないとか。……なるほど。
さて、ビジネスモデルには2つの基本概念があるそうです。それは「多様性の確保」、「フロンティアの拡大」だそうです。
「ローマ帝国」ビジネスモデルの発案者は、アウグストゥス。「パックス・ロマーナ」と呼ばれた平和の時代を実現し、道路や上下水道などのインフラストラクチャを建設して、市民生活と交易の基礎を作っただけでなく、ソフト面でも統治機構を整備、軍の改革、税制改革、通貨基盤の整備なども行った人です。
ローマ帝国は、対外的には寛容主義を取り、戦争敗者を同盟者として受け入れることで「多様性を確保」しました。また「フロンティアの拡大」の方は、「ローマ帝国」ビジネスモデルの創始者アウグストゥスの時代に、すでに軍事的領土拡張策は限界にきてしまっていましたが、彼は「通商の拡大」という新しいフロンティアを見出したのです。
そしてローマの指導者としての条件は、1)兵士と市民に物質的豊かさを約束できること、2)正当性を確保すること、3)ビジョンを持つこと、だったそうです。これを企業の場合で考えると、1)従業員や取引先、顧客による支持、2+3)企業理念、になるのだとか。
こうして長期間、覇者として存続し続けたローマ帝国ですが、最終的に崩壊することになってしまった基本的原因は、異質なものを排除するようになったことなのだとか。
「組織にとって異質性や多様性が必要である第1の理由は、同じ人ばかりだと「内輪の論理」「仲間内の論理」「なあなあ主義」が蔓延しやすいことだ。第2の理由は、同じ人ばかりだと、それらの人々の既得権益保護が最優先事項となり、企業のビジネスモデルを変更できなくなることだ。」と書いてありましたが、確かに、ローマ帝国の成功・失敗からは、多くのことを学べそうです。
そして「第2部 フロンティア拡大というビジネスモデル」の方は、(エリザベス1世の)イングランドがスペインを破って覇権を握った海洋国家による地理的フロンティア拡大に始まり、現代のIT企業や人工知能まで考察しています。
これらのなかでは、成功したビジネスモデル(グーグルが見出した空前のフロンティア(検索連動型広告)、水平分業化による工場なき製造業企業(ファブレス企業)など)だけでなく、失敗したビジネスモデルも直接的な教訓を与えてくれます。例えば、「新しい技術の価値を評価せず、古いビジネスモデルに固執すること」、「異質性を排除し、同質の人々のグループになってしまうこと」、「短期的利益にとらわれて、長期的見通しを失うこと」等々……。
この本の全体を通して、野口さんは、今後のビジネスモデルを成功させるためには、「多様性の確保」と、「市場メカニズムの重視」が特に重要だということを説いているように感じました。
歴史は多くのことを私たちに教えてくれます。私たちの身近には、人類のたどってきた長い歴史記録があるのですから、そこから学ぶことで、失敗する確率を減らし、成功する確率を上げるよう努力すべきなのでしょう。
いろいろな意味でとても参考になる本でした。ぜひ読んでみてください。