『俯瞰図から見える IoTで激変する日本型製造業ビジネスモデル』2016/12/23
大野 治 (著)

モノと情報をつなぎ、新たな価値を生み出すというIoTが進んでいますが、その具体的なイメージは、いまだにあやふやな感じがあります。この本で著者の大野さんは、IoTを技術要件で8つに分解・分析し、そこに市場の全体像を重ねて全貌を明らかにすることで、日本の製造業の進むべき道を示してくれています。
さて、IoTを牽引する大きな活動としては、ドイツ政府の国家プロジェクト「インダストリー4.0」と、アメリカの「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」があげられます。このうち、例えば「インダストリー4.0」の中心企業の一つであるシーメンスでは、顧客要望を反映させた個別仕様製品を同じ生産ラインで作り分ける「個別大量生産」を実現する自動生産ラインを開発したそうです。この「個別大量生産」とは、生産ライン上を流れてくる製品に添付されているチップ内の情報を瞬時に読み取り、流れてくる製品に一つひとつ異なる部品を取り付けるというもので、一つの生産ラインで100種類以上の異なる製品を同時に作り分けることも可能なのだとか。このように進んだIT技術を、製造業などのさまざまな分野で活用していこうというのが、IoTの動きで、その本質は、インダストリアル・インターネット、すなわち「ソフトウェアによって最適化制御されたインフラ」にあるそうです。
このシーメンスのような「個別大量生産」が実現していくと、この活動に参加していない中小企業には、かなりの打撃になりそうだということが容易に想像できます。IoTに乗り遅れることは、企業としての衰退を意味してしまうのだということを痛感させられました。
このドイツとアメリカの動きに対して、日本(の製造業)がどう動くべきか、大野さんは、いくつかの具体的な提言をしてくれています。
まず、「企業は既存事業をIoT化するために何をすべきか」に関しては次の4つの提言。
提言1)自社製品の「最適化とは何か」の定義から出発せよ
提言2)自社がどの戦略で攻めるのか明確にせよ
提言3)経営の仕組みを世界のスピードに合わせよ(経営者はスペックに関与せよ)
提言4)経営者はソフトウェア思考を持て

そして、「国家プロジェクトとして実施すべきこと」として、次の4つをあげています。
1)「何を国家として規格化し、何を欧米の規格を受け入れ、何を企業の自由競争に委ねるのか」のグランドデザインを描くこと
2)セキュリティ対策など企業の枠組みを超えた公共性の高い内容の日本の独自の規格化
3)インダストリー4.0の通信規格などの欧米ですでに標準化が推進されている内容の日本への消化・受け入れを推進すること
4)プラットフォーム開発など企業の自由競争に委ねるべき部分に対して、海外の攻勢からの国内の保護や、法整備や優遇措置などによる後押しを推進すること

IoTの進展とともに、生産現場は現実世界から仮想空間へシフトし、すべてのものが人工知能(AI)によって制御されるようになるそうです。
また、日本にとって深刻な問題となっている少子高齢化は、IoTにとってはむしろ有利な条件になるのかもしれません。大野さんは、「少子高齢化による労働力供給の減少は、IoTの推進によって到来する労働力需要の減少にとっては、むしろ好都合である。」と言っています。……なるほど。
IoTが、日本型製造業ビジネスモデルにどう影響を与えるかについて、とても具体的に考察している本でした。全体的な動向などの分かりやすい解説があるだけでなく、代表的な企業の具体的な事例紹介も多く、さらに大野さんによるまとめ(結論)と予測、提言まで書かれています。
IoTの動きに乗り遅れたくはないけれど、具体的にどう動けばいいのか……と悩んでいる方には、とくに参考になると思います。なかでも「第4章の3 製造業が垂直統合サービスを実現するためのハードルは何か」の中で紹介されていた、日立システムズがIoT化の相談を受けた機械メーカー(A社)の取り組みは、具体的ですごく参考になりました。A社の目的は、「顧客先での製品の故障時間を短縮することと予防保全を向上することで顧客満足度を向上させること」でしたが、取り組みの中で次の6つの壁(システム環境、データ定義・品質、データ連携、会社・組織、技術・スキル、運用)にぶつかったそうです。これらの壁は、一般的な製造業も同じようにぶつかるものだと思います。やはりIoT化を具体的に進めることは、容易ではないのですね……。
いろいろな面で実践的に参考になる本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆