『権威と権力――いうことをきかせる原理・きく原理』1974/3/28
なだ いなだ (著)

権威と権力について、日常身近な諸事象の分析からその正体をつきとめ、自律的人間の条件とは何かを考察した本です。
初版が1974年とすごく古い本ですが、今でもすごく参考になります。実は、読書好きを自認しているくせに、最近、勧められるまで、この本の存在を知らずにいたのですが……どうして今まで読んでいなかったんだろうと後悔してしまうほどの良著でした(汗)。でも読まなかった理由も分かります。だって……『権威と権力』なんてタイトルの岩波新書ですよ(笑)。そもそも高校生の頃は、岩波新書はビジネスマンが読むものだと勝手に信じていましたし(汗)、まして『権威と権力』みたいな国家や政治を連想させるタイトルなんじゃ……それでもこの本は、高校生ぐらいの若い方にぜひ読んで欲しいと思います。タイトルは『まとまりのないクラスにキレた委員長の俺は』みたいなちょっとチャライものにして、美少女イラストの表紙で再発売してみたらどうでしょうか(笑……表紙詐欺と叩かれること確実でしょうね)。
……冗談はともかく、この本は、まとまりのないクラスに悩む高校生のA君が、精神科医のなだ先生に相談に来たところから始まります。でも実は、なだ先生も同じようないらだちを感じていたのでした。そこで、A君に「こうしなさい」と明快に返事が出来ない先生は、いい機会だからとA君と一緒にこの問題を考えることにしたのです。
……この冒頭の展開にまず感心させられました。若者から質問されて答えられない時、何かそれらしいことを言って(ごまかして)帰してしまうという大人が多いのではないかと思うのですが(汗)、さすが精神科医のなだ先生は、「一緒に考えよう」と提案するのですね。
この本は、全編がA君と先生の対話で構成されています。
「まとまりがないのは、みんな自分のことしか考えていないから」「まとまりに必要なのは英雄だ」とA君は思っているようです。そして「きまりを、みんなが守らなくなった」というA君に、なだ先生は「きまりを守らせていた何かが失われたのではないか?」と指摘し、二人は「権威がなくなった」ことの考察を始めます。
こうして二人は「第一章 失墜した権威」「第二章 権威と権力」「第三章 権威とは何か、権力とは何か」「第四章 いうことをきく心理」「第五章 判断と権威」「第六章 日常の中で」「第七章 説得の方法」「第八章 権威と反権威」「第九章 まとまりなき社会」とどんどん対話を進めていき、権利と権力の違い、組織の在り方、さらには革命にまで考察を深めていきます。
そして最後にA君が得た「まとまりのないクラスへの対処法」とは……。おそらく最初に彼が期待した答えではなかったのではないかと思いますが(汗)、すごく納得できるものでした。
この本は、特に高校生ぐらいの若者の方に読んで欲しいと思います。というのも、彼らはまさに「自我の確立期」にあるからです。人間は生まれてすぐは、親や大人に頼らなければ生きていけません。この時期は大人のいうことすべてを信じる時期です。やがて自我が確立し始めると、「他人の言うとおりになることは、自分がなくなるように感じて、自分しかなくなってしまう」時期(中学から高校生ぐらい)がやってきます。そしてそれを通り抜けて、やっと自我が確立していくのです。自我の確立とは、「他者と対等の自分を意識すること」だそうです。
この『権威と権力』に関する対話集は、内容も素晴らしいのですが、二人の対話を通して、困難な問題を考察する方法を知ることで、「自分で考える力」を育てるのにとても役に立つと思います。
心に響く文章をたくさん見つけられる本でした。最後に、その一部を以下に紹介させていただきます。
「理による説得とは、一人が別の人間を支配するということじゃない。説得する人間が、説得される人間にも自分にも共通するものを見つけることさ。」
「理想は、たどりつくべき目的地ではなく、永遠のかなたにあって、ぼくたちに進路を教える導きの星のようなもの」