『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』2015/2/20
センディル・ ムッライナタン (著), エルダー・ シャフィール (著), & 1 その他

いつも「時間がない」と思っている人の心理を検証することで、問題を解決する方法へと導いてくれる本です。
時間がないときの私たちの頭脳の処理能力は、「時間がない」ことへの対処に食われて、他のことに使える分が少なくなってしまうのだそうです。色々な問題が起こる原因は、単なるなるストレスなどだけではなく、欠乏によって認知能力や実行制御力という頭脳の力が低下するからなのだとか。そして恐ろしいことに、欠乏は欠乏を生むという悪循環へとつながっていきます。
この本は豊富な具体例で「欠乏」の心理を解き明かした上で、そういう心理を踏まえて問題の解決策を考えることが大事だということを教えてくれます。
すごく参考になったのは、ある救急病院の例で、手術室がいつも予定でいっぱいなために外科手術の予定を組むのが難しいという問題、手術の数に対して手術室が足りないという欠乏に関する問題です。その対処としてアドバイザーが示したのは、なんと「手術室をひとつ開けておく」という方法(!)。そして意外にもこれが、問題解決にとても有効だったのです。実はその病院では、救急病院の性格上、計画外の追加手術が頻発し、そのことが問題を複雑化させていることが分かったので、計画外用の手術室を用意しておくという方法をとることで、それ以外の手術室では計画された手術を予定通りに行えるようになったという訳なのです! 計画の組み直しが発生しなくなったので、状況はどんどん改善していったとか。なるほど……。
また「欠乏」に関するスーツケースの喩えも分かりやすかったです。小さいスーツケースに荷物を入れるには、必要なものを厳選しなければならないので大きいスーツケースを使うよりも効率化を図れますが、荷物が増えた時への対処は、すでに入っているものを出して入れ替えなければならないなど大変になるのだとか……この本では、このように「欠乏」の良い面と悪い面の両面を具体例で示してくれます。
そして欠乏の悪い面(罠)にはまらないようにするためには、スラック(ゆるみ、たるみ)が必要で、それがあればトンネリング(目先の欠乏への対処に集中するあまり、その他のことが目に入らなくなる状態)に陥らずに、正しい判断ができるようになると教えてくれます。……確かにその通りですね。
自分に「時間がない」問題の解決に役に立つだけでなく、「時間がない」と訴えてくる部下や同僚にアドバイスするのにも役に立つ本だと思います。これを読むと、彼らが悪循環から抜け出せるような方策を考えるヒントを得られそうです。
なお、この本の前半では、「欠乏」に関する豊富な具体例(実験・研究成果)に対して、その解決方法に関する教えの方は少ないので、じりじりしてしまいましたが(汗)、「第9章 組織における欠乏の対処」以降には、対処法がたくさん掲載されているので、本当に「時間がない」方は、この章以降から先に読むと良いかもしれません。もちろん前半にも、役に立つヒントがたくさんあるので、時間が出来た時に前半も読むと、「欠乏」の時の人々の心理がよく分かって、もっと良い対処法が出来るようになるのではないかと思います。