『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』2015/6/5
デービッド アトキンソン (著)

少子化が経済の足を引っ張る日本は、これからどうすべきなのか……それは「観光立国」となること。イギリス人アナリストのアトキンソンさんが教えてくれる21世紀の「所得倍増計画」です。
少子高齢化が進みつつある日本ですが、出生率はすぐには上がりませんし、移民政策もなかなか受け入れられません。女性の就業率を増やすというのも一つの方法ですが、アトキンソンさんは、むしろ女性の働き方を変えていくことの方が先決ではないかと考えているようです。しかもそれが実現しても、「大きな成長」までは望めないだろうと言うのです。
ならば、どこに活力を見出すか……それが「短期移民」という形で人口を増やすこと、すなわち外国からの観光客を増やすことだそうです。
実は日本は「観光」では他国にかなり遅れをとっています。2014年の報告では、世界の環境産業は、全世界のGDPの9%を占めているそうです。GDPに占める観光収入の割合は、アメリカが1.2%、スペイン4.8%、フランス2.3%、イギリス1.7%に対して、日本はたったの0.4%なのです。
ところで外国から観光客を呼ぶため、アトキンソンさんが必要だと感じている4条件は、「気候」「自然」「文化」「食事」だそうです。日本はこれらすべてを満たしているのに、外国からの観光客が少なすぎる……いったいそれは何故なのか、そしてどうすればいいのかを、この本でアトキンソンさんが分析しアドバイスしてくれているのです。
その原因の一つは、「観光業に力を入れてこなかったから」。……確かに。先端技術や工業には力を入れてきたと思いますが、観光業にはそれほど力を入れてこなかったのかもしれません。「日本語」という障害があることも大きいと思いますが、「観光産業」にはどこか「祭」の匂いがするような気もします。「期間限定」な上に「きまぐれなお客まかせの不安定さ」が、「基幹産業」の一つとするには危険なように思えるのです。
でも実際には、私たち日本人自身が「観光」を「祭」にしてきたのかもしれないと気づかされました。アトキンソンさんが指摘するように、日本の観光産業は「ゴールデンウィーク」に代表されるような特徴があったのだ、と。つまり特定の時期の祭やブームの「かきいれどき」に観光をするのが一般的になっていたので、観光業界もいっぺんに押し寄せる観光客をいかに効率的にさばくかに気をとられ、本当の「おもてなし」をしないまま、結果的に、海外からの観光客にとって魅力のないものになってしまっているのかもしれません。
それでも日本は「治安が良く」て、「交通網が発達しているうえに時間が正確」で、「チップの必要もない」のだから、そこが魅力的なのでは? と思ってしまいましたが、これらは「観光の大きな魅力」にはならないそうです。例えばペルーのマチュ・ピチュは非常に不便だけど、年間40万人以上の観光客が訪れることなどを考えると、「他の国にはない独自なものを見学(体験)できる」ことが一番の魅力で、それ以外のことは観光先を決めるときの大きな決め手にはならないのだ、と痛感させられました。しかも「チップの必要もない」のも良いとばかりは言えず、サービスに満足できなかった時に「チップ」を払わないという選択ができなくなっている欠点もあると言います。
また日本の観光地は全体にスケール感が小さくて、万里の長城みたいに「見てすぐ分かる凄さ」が少ないとも指摘しています。基本的に日本の文化財は「見た目は地味だが、よくよく聞くと凄い」ものが多いのだとか。つまり「見た目だけで分かってもらえない=説明が必要」なのに、外国語での説明が圧倒的に少ないので、日本文化に興味がある観光客にとって、魅力が少ないものになってしまっているそうです。
さらに「外国からの観光客」を一括りに考えずに、中国や韓国、アメリカやイギリス、フランスなど各国ごとにセグメント分けして、それぞれに対応すべきだとアドバイスしています。
大事なことは、観光客にいかにお金を落としてもらうか、そして何度も来てもらえるようにするかを考え、実行していくことのようです。
この本には、そのための改善のヒントがとてもたくさん書いてあり、すごく参考になりました。さすが元ゴールドマン・サックスの一流のアナリストの仕事は違いますね。耳に痛いことをずばりと言ってくれるだけでなく、データに基づく分析による説得力も凄く、さらに合理的なアドバイスもしてくれる……コンサルタントの理想の姿を見せてもらったような気がします。
観光業に携わる方はもちろん、他の仕事をしている方にとっても、参考になる話が満載だと思います。ぜひ読んでみてください☆