『忍者の歴史』2016/4/26
山田 雄司 (著)
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黒装束に手裏剣、怪しい忍術を使って驚異的身体能力で相手を倒す……アニメや漫画、小説での忍者のイメージはこんな感じですが、本当のところはどうだったのか? この本は、忍者の実像を歴史資料の研究によって明らかにしてくれる本です。
実際には、忍者は間諜(スパイ)としての性格が強く、敵と遭遇しても、戦うよりは逃げることの方が多かったようですが、情報を持ち帰るのが最優先のスパイなら、これはむしろ当然のことだと思います。なにしろ忍者が重用された戦国時代には、戦いの専門家としての武士が存在していたのですから。忍者は武士とは違う役割を果たし、ある時は敵国へ侵入して放火・破壊・情報収集をおこなう戦闘員、またある時は大名屋敷や百人番所の警備員として活躍していました。
「忍びに遣わすのに適した人物として、第一に智慧のある人、第二に記憶力のよい人、第三にコミュニケーション能力に秀でた人、この三つの要素が大切で、これがなければ忍びはなりたたないとしている。」ということですが、間諜(スパイ)なら、もちろんこの三要素がとても大事ですよね。
この本では忍術書の一部も紹介されますが、忍者は黒装束を着ていることはあまりなく、総じて目立たぬように普通の服を着ていたようです。そして闇夜には黒色の服がよいが、月夜はかえって目立ってしまうので違う色にした方がよいとか、忍び込んでからは、鼾の音で家人が熟睡しているか判断するとか、退出口を必ず確認しておくとか……すごく実践的な内容が書いてあったようです(笑)。
こうして見ると、忍者と泥棒は同じ技術を使っているように感じますが(汗)、忍術書には「忍びとしての心構え」がきちんと書いてあって、「心身健康な者。行いが正しく恩を忘れない者。智謀に富む者……」など、忍びにとって最も重要なのが「正心」という心のあり方であり、それがなければ盗賊と同じであると注意が喚起されていたそうです。心が正しくコントロールできないときは、臨機応変の計略を遂行できない、と。
忍者は戦国時代に活躍し、江戸時代でも「赤穂事件」の際に、赤穂の周辺諸藩が忍びを放って赤穂藩の動静を探った記録が残っているようです。もっとも乱世が終ってからは「忍びの技術」を実際に使ったことのない若者が増えてきたらしく、若者に忍術の伝統を残そうと『甲賀忍の伝未来記』が書かれたりしたようですが……。
この本は、歴史家の山田さんによる学術的な本なので、忍者の歴史的実像を知ることが出来ます。忍術書だけでなく、忍具についてもイラスト付で記載されていますので、忍者の出て来る物語や絵を書く時の参考になると思います。
もっとも物語や絵を描く場合は、ファンタジーとしての忍者像を描ければいいので、真昼間っから黒装束を着て、追いつめられて崖から落ちてしまう時にも、敵に長々と捨て台詞を残したあげくに、岩肌にクナイを鋭く打ち込んで、まんまと逃げおおせる……みたいな展開でも、まったく問題ないとは思いますが……(汗)。
それでも「実像」もきちんと知っておくと、何かの役に立つかもしれません(汗)。この本は、忍者の歴史について総合的に解説してくれますので、とても参考になると思いますし、参考文献・史料リストも充実しています。