『穴 HOLES (講談社文庫)』2006/12/15
ルイス・サッカー (著), 幸田 敦子 (翻訳)
1605020069AP01N
無実の罪で砂漠の矯正施設に入れられた少年が、大地に穴を掘るだけの苦行の日々から脱出し、不運を幸運に逆転する冒険へ……全米図書賞、ニューベリー賞他受賞の傑作児童文学です。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
物語は、主人公の少年スタンリーの現代と、そのひいじいさんの時代(百年以上昔)の話が交錯して進んで行きます。でぶの少年スタンリーの家系は不運続きなのですが、その原因を作ったのは、豚泥棒のひいじいさんのスタンリーだったとか。その不運はもちろん少年スタンリーにも引き継がれ、彼はスニーカーを盗んだという無実の罪で、砂漠の矯正施設に送られることになってしまいます。
そして、この砂漠の矯正施設でやらされることが、砂漠の穴掘り! 何人もの不良少年たちが、水のない砂漠でひたすら円柱状の穴を掘らされ続けているのです。忍耐力を養うとか人格形成のためにさせられていると言われているのですが、「何か変わったものが出てきたら報告するように」も言われています。ある日、少年スタンリーは幸運にも化石を掘りあてるのですが、所長はそれにはなんの興味もないようでした。なのに「KB」と彫られた口紅の容器を掘り当てたら、所長たちの態度ががらっと変わってしまい……というちょっと不思議なストーリーです。
どんな意味があるのかわからないまま、現在と過去の話が交錯していくので最初は少し読みにくいのですが、砂漠で円柱状の穴をひたすら掘らされる少年たちの状況のシュールさに笑わされ、矯正施設の構成員たちの怪しさにも惹きつけられて、どんどん先を読み進めずにいられません。
この矯正施設に送られる前も、周囲とうまくコミュニケーションが取れていなかった孤独な少年スタンリーは、この過酷な環境で、周囲から馬鹿にされているゼロと呼ばれる少年としだいに友情を築いていきます。
ところがゼロに頼まれて読み書きを教えていたことが大人たちにバレて、怒ったゼロは矯正施設から飛び出していってしまいました。周囲には水もない過酷な砂漠が広がっているのに……。
そして少年スタンリーは、ゼロを救おうとして矯正施設から逃亡することになります。これが彼の運命を変えることになるのでした……。
不良少年たち(といってもスタンリーは無実なのですが)が主人公の物語ですが、彼らは芯から腐っているわけではないので、読んでいて爽やかです。しかも不運続きの家系のスタンリーでさえ、全員、めちゃくちゃツイてないくせに、いつでも希望を失わなず、「失敗から学ぶのさ」とスタンリーの父さんは好んで口にするのです。
……そして、百年以上もの間、散らばった運命のピースが、だんだんと大きな美しい曼荼羅として収束していきます。一見なんの関係もなく語られていたような小さな物語が、実は絡まり合っていたのだということに気づいた時、うわあああ・・!と作者の手際の見事さに驚かずにいられません。児童文学としてすごく面白いのはもちろんのこと、この見事なストーリー構成が、文学好きにはたまらないと思います。
最後に、一番心に残ったシーンの少年二人の台詞を紹介します。

「言っとくけど」スタンリーは忠告した。「ぼくは運がいいほうじゃないからね」
ゼロは気にするふうもない。「穴に落ちっぱなしだったんなら、こんどは上がるばっかりだ」