『宮本武蔵―「兵法の道」を生きる (岩波新書)』2008/12/19
魚住 孝至 (著)
1605020063AP01N
宮本武蔵の生涯を追うとともに、その思想を、『五輪書』を核に精細に読みといた本です。
実は、宮本武蔵に関しては、信用できる史料がきわめて少なくて、意外にも、その生涯が詳しく分かってはいないのだそうです。この本は、さまざまな資料をもとに、その生涯を解き明かしていきます(有名な水墨画や筆跡などの写真もあります)。また『五輪書』についても詳しい解説をしてくれます。
さて、日本の有名な古典の一つ、『五輪書』を読んでみようと思い立ったのはいいのですが、そもそも古武術等に詳しくはないので、理解の助けを得ようと思って読ませていただいたのがこの本です。宮本武蔵の『五輪書(現代語訳)』は意外にも読みやすかったので、この本がなくても大筋は理解できたのですが、この本のおかげで、さらに興味深い色々なことを知ることが出来ました。
特に参考になったのは、剣術書としての『五輪書』と、現在の剣道との違いに関することで、例えば「武蔵がいう足遣いは、今日の剣道がつま先を強く踏み、踵を紙一枚浮かしているのとは逆である。剣道では相手が一人で前方だけにいて、打ち所が決まっているので、道場の床をつま先で蹴って前に飛び込む。ところが実戦では野外で地面もさまざまで、敵が前後左右どの方向にいるか分からないので、こうは出来ない。武蔵に限らず、古武術に共通する足遣いは、今日の剣道の足遣いとは全く別物である。」など、スポーツとしての剣道と、武蔵の実戦的剣術との違いについても詳しく解説してくれています。
また、「ただ『五輪書』の「五つのおもて」には、構え方については具体的な記述がなく、右の太刀の遣い方だけで、左の小太刀の遣い方も、また敵との関わり合いも書いていないので、これだけ読んでも、形の実際のやり方はよく分からない。」という問題に対処するため、なんと二天一流相伝の「五方の構」として、山東系の師範による演武例の写真(5枚)も掲載してくれています。剣術書としての『五輪の書』に興味がある方は、この写真を見ることで、いっそう理解を深められるのではないかと思います。
そして「空の巻」の解説の「術がおのずから出るまでに、心も身も磨かれ澄んでくると、空の巻で言っていたように「少しもくもりなく、まよひの雲の晴れたる所」に開かれていくであろう。そうなれば、武士としての生き方においても、「おのれと実の道に入る」ことになるのである。「実の道」は絶えず自らの道を修行していく中で、達するものなのである。」という文章も心に沁みわたりました。
武蔵が『五輪書』の筆をおいたのは、死の一週間前だったそうです。自らの兵法の直道を後世に残そうと最期まで力を尽くした……剣豪として本当に見事な生き方だったのですね……。
宮本武蔵や『五輪書』について、とても総合的・詳細に解説してくれる本でした。興味のある方は、『五輪書』とともに、是非この本も読んでみてください。