『首都水没 (文春新書)』2014/8/20
土屋 信行 (著)
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ゼロメートル地帯が4割を占め、多数の地下鉄が走る東京は、とても水害に弱い構造をしているそうです。仮に利根川で氾濫が起きれば、浸水区域内人口約230万人、死者数約6300人という膨大な数になると予想されているとか……この本は、首都水没の危険性を教えてくれます。
実は、巨大な沖積平野の関東平野は、もともと水害の多い地域でした。沖積平野の成り立ちから考えても当然のことだと思います。そのため、かなり昔から治水や開発のために大規模な河川工事が行われてきました。
例えば、江戸時代に行われた「利根川の東遷事業」は、東北の豊かな産物を江戸まで運びやすくするために、利根川の流れを変えたものです。また氾濫を繰り返す荒川の治水のために、荒川の流れを変える「荒川の西遷事業」も行われました。これらの大規模な河川事業は、治水の他に、新田開発、舟運路開発、江戸の洪水の防御などに役立ちました。
ところが明治43年、台風による集中豪雨で、利根川荒川水系の各河川は各地で堤防が決壊、大氾濫し、関東平野が水浸しになる「東京大水害」が起きました。それを契機に、東京の下町を水害から守る抜本策として「荒川放水路」の開削事業が始められ、同じ時期に掘削された「江戸川放水路」の二つの放水路の完成を受けて、ほぼ現在の東京東部低地の骨格が出来あがったそうです。
そして工業の発展とともに、東京では地下水がどんどん汲みあげられました。このことが地盤沈下をひき起こし、東京を水災害にさらに脆弱な土地にしてしまったそうです。驚いたことに、この時、汲みあげられたのは地下水だけでなく、天然ガスもだったそうで、なんと「東京ガス田」と呼ばれたほどだったとか。江戸川区、江東区にはたくさんのガス井戸が掘削されたそうです。
この本を読むと、東京の水関連の大規模事業や開発の歴史を知ることが出来て、とても興味深かったです。
ところで、防災関連の本を読むと、地下鉄は構造的に安全に出来ているので、巨大地震の時には慌てて地上に出るよりも地下にいた方がむしろ安全だ、という話が書いてあることがありますが、東京の場合は、地下鉄からは、すぐに逃げなければならないそうです。地下鉄は防水隔壁を設置するなどの対策が施されてはいるものの、大潮の満潮時に、東京のゼロメートル地帯の堤防のどこか一つが決壊すれば、首都は水没し、地下鉄・共同溝・電力通信の地下連絡網のあらゆる機能が失われてしまいかねず、地下鉄自体は構造的に安全でも、浸水してきた洪水で満たされてしまう可能性があるからだそうで……すごく怖いですね(汗)。
東京都内には、東部を中心に、水害の危険地域が多数あるそうです。スイスの保険会社が2013年にまとめた「自然災害リスクの高い都市ランキング」では、なんと東京・横浜地区は世界第1位! 日本では他に、大阪・神戸地区が5位、名古屋が6位だとか……。日本の大都市のほとんどが沖積平野にあるので、しょうがないのかもしれませんが、地震と同じように、水害も「いつか必ず来る」と思って、日頃から備えるべきなのでしょう。
アメリカでは、ハリケーンの襲来の時に避難命令が出され、上陸の2日前までに住民の避難に必要なバス1000台の確保、高速道路のすべての車線を避難方向への一方通行にして、190万人を避難させたことがあったそうです。自然災害の国・日本も、このような防災・避難体制を作るべきなのでしょう。
この本の最終章「第9章 強靱な日本を創るために」では、これからどうすべきかのヒントを読み取ることが出来ます。現在、東京に住んでいる方は、ぜひ読んでみてください。