『グーグル秘録』
ケン・オーレッタ (著), 土方 奈美 (翻訳)
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最強にして最も危険なネット企業と言われるグーグルの誕生から成長への軌跡を描いた本です。 グーグルだけでなく、同時に急成長してきた巨大IT企業や、蹂躙されてきた(?)巨大旧メディア企業などの事情も詳細に記されていて、時代背景を深く知ることも出来ます。グーグルの波は広告、新聞、出版、テレビ、電話、映画、ソフトウェアやハードウェアなど幅広い業界を襲ってきたのです。
2016年の現在、無敵に思えるグーグルですが、創業当時は本当に貧乏な弱小企業で赤字続きだったとか。その二人の共同創業者(ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン)の「世界中のあらゆる情報を整理し、だれにでも使えるようにする」という壮大な目標への情熱、自由でフラットな企業文化、無謀なほどの多角化戦略など、グーグルの誕生から成長への道を辿ることが出来ます。
また、グーグルはいろんなサービスを生み出してきましたが、その背景には、「勤務時間の20%を自分が情熱を感じるプロジェクトにあてることを許されて」いて、小さい実験をたくさん積み重ねることが出来るという自由な職場環境があることなど、この本を読むと、不確実性時代の企業経営にも役立つヒントも数多くつかむことも出来ます。
さらに、それだけではなく、この本の最大の価値は、「ノンフィクションを取材する人のあるべき姿」を見せてくれるところにもあるのではないでしょうか。この本は、グーグルによって立ち位置を揺るがされている旧メディア側(「ニューヨーカー」記者)のオーレッタさんによって取材・執筆されているのですが、徹底した取材(エリック・シュミット、サーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジら、ほぼすべてのグーグル幹部に150回の取材の他、新聞、出版、音楽、テレビ……伝統メディア幹部150名にも取材しています)を行っていて、どちら側にも偏らない冷静で中立的な内容に仕上がっています。インタビューや事実に基づいているので、すごく説得力があります。
グーグルなどのIT企業が、ニュース(抜粋)を無料で提供しているために、旧メディアの経営は厳しさを増している(危機に瀕している)状況にあるようです。オーレッタさんのような超優秀な記者にも、それは及んでしまうのかもしれません。このような誠実で真摯な仕事をする記者の存在なくして、価値あるニュースは生まれないと思います。現在、便利かつ無料で利用させてもらっているニュース記事(抜粋)などのサービスに料金を払うことについて、もっと真剣に考えるべきなのだろうと感じました(汗)。
「地球はググられた」
グーグルは「歯磨きのような生活の一部となった」と書いてありましたが、私の実感としても、まさにその通りで、グーグルという蛇口を通して日々の情報を得ている状態にあります。
考えてみると、「検索サービス」というのは、それ自体が「巨大なメディア」なのだと思います。
個人的には、「検索サービス」がネットの全情報を牛耳る力を持っていることに不安を感じてもいます。グーグルはすでに、なろうと思えば、ネット世界の「神」として君臨できる力があります。気に入らない情報があれば、検索結果から消してやればいいのですから。だから検索サービスは、グーグル以外にも、数社は存在して欲しいものだと思っています。
ただ……グーグル以外の会社の検索結果の方がむしろ信頼できないかも、とも感じてしまいます(汗)。検索システムの構築・維持管理には巨額の費用がかかる以上、費用を支払う会社の検索順位を上げて表示するというのは、むしろ当然の行動ではないでしょうか。これは新聞やTVなど旧メディアが、「紐付き記事」を書くことがあるのと同じとも言えます。
グーグルには「邪悪になってはいけない」という独自の倫理感があり、少なくとも、これまでのところは「検索結果に恣意的操作を加えていない」という信頼感が最も感じられる会社だと思っていますが、これからも、そうであり続けて欲しいと心から祈っています。なせなら、すでにネット世界にはあまりにも大量の情報が溢れているので、ひそかに邪悪化したグーグルが検索結果に目立たない程度の恣意的操作を加えても、おそらく気が付かないのではないかと思ってしまうので……(汗)。
この本は、IT産業の持つ大いなる可能性とともに、危険性をも教えてくれる本だと思います。2010年発行の本ですが、ぜひ一度、読んでみてください。