『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』
ジム・コリンズ (著), ジェリー・I. ポラス (著), 山岡 洋一 (翻訳)
時代を超え際立った存在であり続ける企業(ビジョナリー・カンパニー)18社を選び出し、設立以来現在に至る歴史全体を徹底的に調査、ライバル企業と比較検討することで、永続の源泉が「基本理念」にあると解き明かしてくれる本です。
ビジョナリー・カンパニーとは「ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的な企業、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業」だそうです。
企業の使命としては株主への利益還元など特に求められますが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのように企業が奉仕する優先順位として、1に顧客、2に社員、3に地域社会、最後にようやく株主という基本理念を掲げる企業も、アメリカの経営者から尊敬を集めています。この本では、企業を組織する人間が企業内に活力を生み出すのは、お金では計れない動機づけにあるというシンプルな「真理」が、ライバル企業と比較された各社の資料、エピソードから浮き彫りにされます。
ビジョナリー・カンパニーで大切なことは、「基本理念を維持し、進歩を促す具体的な仕組みを整えること」、「進歩を促すBHAG(社運を賭けた大胆な目標)」だそうです。
すごく参考になったのは、「第7章 大量のものを試して、うまくいったものを残す」の中の「進歩を促すにあたって学ぶべき5つの教訓」でした。それは、
1)試してみよう、なるべく早く
2)誤りは必ずあることを認める
3)小さな一歩を踏み出す
4)社員に必要なだけの自由を与えよう
5)重要なのは仕組みである、着実に時を刻む時計をつくるべきだ
の5つで、規律を守るとともに、失敗を恐れずに「自由に試す」風土づくりも大切なのだなと感じました。
この本は、ビジョナリー・カンパニーの18社の歴史に対する6年間の調査から生み出されたレポートに基づく分析(比較対象企業との対比分析)によって、ビジョナリー・カンパニーが他の会社とどう違うのかを明らかにしているので、分析結果にすごく説得力があります。ただ……この本が出された1995年当時には、「ビジョナリー・カンパニー」だった会社のうち数社が、2016年現在では危機に陥っていたり、没落していたりして、栄枯盛衰を感じます。やはり「ビジョナリー・カンパニー」であり続けることは困難なのですね……(汗)。
それでも、この本に価値がないわけではありません。少なくとも、この本が出された時には、これら18社が正しい戦略で「ビジョナリー・カンパニー」になっていたという事実がありますし、この後の『ビジョナリー・カンパニー3』で、その衰退の経緯がまた分析されることなるので、そのための基礎資料としても利用できるからです。
このような大規模な調査に基づく企業分析は、なかなか出来るものではないので、企業経営に興味がある方は、ぜひ一度、読んでみてください。