『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』
ジム・コリンズ (著), 山岡 洋一 (翻訳)
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偉大な大企業も衰退する……この本は、『ビジョナリー・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』で、膨大な調査データから「時代を超える生存の法則」と「良好な企業から偉大な企業への飛躍の法則」を導き出した経営学者のコリンズさんが、企業の「衰退の法則」に着目、それを「衰退の5段階」としてまとめたものです。
今回取り上げられたのは、前記2冊で言及された60社の大企業のなかから、「衰退の五段階」を歩んだしまったヒューレット・パッカード(HP)、メルク、モトローラ、ラバーメイド、スコット・ペーパー、ゼニスなどの11社(涙)。この11社を、現時点(2006年頃)で衰退していない同業の比較対象企業と比較し、どこが岐路となったのかを分析したのです。ただし衰退企業11社を選んだのが2008年の金融危機以前であったため、『ビジョナリー・カンパニー2』では飛躍企業として取り上げられ、経済危機で国有化されたファニーメイ(連邦抵当金庫)は入っていないのですが、これについても、付録に「ファニーメイと2008年の金融危機」として言及されています。また卓越したリーダーによって衰退パターンを逃れたケースとして、ルイス・ガースナーによって再建されたIBMや、ニューコア、ノードストロームのケースも付録として収録されています。
さて、「ビジョナリー・カンパニー」であっても、永遠に繁栄できるわけではなく、たった十数年で衰退を迎えてしまうこともあります(涙)。
今回の分析で、コリンズさんは、トルストイの『アンナ・カレーニナ』の冒頭の文章「幸せな家庭はどれも似通っているが、不幸な家庭はそれぞれ違っている」を何度も思い浮かべたそうです。分析から浮かび上がってきたのは、偉大になる道筋よりも衰退への道筋の方が数が多いということで、衰退の過程への法則を見つけ出すのは、すごく難しかったとか。
それでも、衰退には次の5段階があることを見出したそうです。
第1段階:成功から生まれる傲慢
第2段階:規律なき拡大路線
第3段階:リスクと問題の否認
第4段階:一発逆転の追求
第5段階:屈服と凡庸な企業への転落か消滅
そして自分の会社が、これらのうちのどの段階にあるか、衰退への徴候にできるだけ早く気づくことが大事なようです。ほぼすべての企業が危機に見舞われるのですが、それでも企業のすべてが衰退するわけではなく、危機を乗り越え、偉大な企業であり続けることも出来るのですから。
コリンズさんは、「第八章 充分な根拠のある希望」で、「回復への道は何よりも、健全な経営慣行と厳格な戦略思考に戻ることにある」と語っています。
正直に言って、衰退企業とされた11社が、どんな手を打てば危機を乗り越えられたのかは分かりませんでした(汗)。彼らも決して無策だったわけではなく、自分たちに出来る努力をしたにも関わらず、危機を乗り越えられなかったのだと感じたからです。負けたから賊軍になったのだな……という印象を受けました。そういう意味で、この本は「戒め」にはなったのですが、「そんな時にはどうしたら?」を具体的に教えてくれる本ではなかったように思います(汗)。
それでも、これらの企業の調査に基づく「衰退への経緯」を知ることで、自分の会社にその兆候がないかを見つけるヒントを得られるのではないかと思います。
このような大規模な調査はなかなか出来ないと思いますので、企業経営に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。