『ダレン・シャン』
ダレン・シャン (著), 田口 智子 (イラスト), 橋本 恵 (翻訳)
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親友の命を救うために半バンパイア(吸血鬼)になった少年の大長編物語(全12巻)です。
正直に言うと、この本を「お気に入り」紹介記事で紹介するべきかどうかについて少し迷いました。実は、これらの児童文学の紹介記事を書き始めるまで、この本の存在自体知らなかったのです(汗)が、外国の人気児童文学ということで一応読んでみることにしました。すると……のっけから主人公の少年がペットとして飼っていたのが「クモ!」 そして彼と仲間たちが行きたくてたまらない場所が「シルク・ド・フリーク!」。シルク・ド・フリークというのは「異形の見世物」のことで、要するに「めったにない障害を持った動人間や物に不気味な芸をさせてお金を取る」という、偏見と虐待の塊のような奇怪なサーカスのことです(涙)。
こんな児童文学、ダメ!絶対!
すぐに頭に浮かんだのは、この文句でした。
でも……読み進むうちに、だんだん考えが変わってきました。
『ごんぎつね』のことを思い出したからです。
読んだことを後悔したほど悲しいあの話が、本当にくれたものは何だったか……。
児童文学は、愛・勇気・努力などの「ポジティブ」だけで良いのでしょうか? むしろ自分ではできないような「悪」や「ネガティブ」を仮想体験させてくれるという話は、すごく貴重なのではないでしょうか?
……人間の心の中には、「善」だけでなく、「悪」も必ずいます。なぜなら「善」だけで生きていけるほど、世の中は甘くないのです。それは、人間の歴史のなかで、いつまでたっても犯罪や戦争がなくならないというという事実に現れているだけではありません。もっと根源的な理由なのだと思います。人間が生きていくためには、何かを食べなければならないのですから。つまり、生存競争のためにも、善・悪の両方が必要なのだと思います(比率は「善」の方が圧倒的に多いと信じていますが……)。
そういう意味で、子供にとっては、「善」だけでなく、「悪」との付き合い方(他人の「悪」だけでなく、自分の中の「悪」との付き合い方も含めて)を学んでいくことも大切ではないでしょうか。
そしてそれを学ぶためには、この『ダレン・シャン』は一級品です。
主人公の「どこにでもいるような」少年ダレン・シャンは、冒頭から「よせ、やめておけ!」と言いたくなる行動を連発します。そして、どんどん絶体絶命な状況へと陥っていきます。
しかもすべて自業自得なのです。
そして絶望的な状況の中、ついに彼は親友を救うために、彼はある決意をするのですが……。
……とても複雑な思いです。
すべて彼自身の行動が導いた結果なので、彼が破滅の道を行くのは当然だ(というより児童文学として、むしろそれ以外の道を行って欲しくありません)と思いながらも、彼の悩みや決断の理由を知っている者としては、彼にも救いがあって欲しいような気がします。
自業自得とはいえ、彼は、絶望的な状況をもたらした原因を他人のせいにしたり、言い訳したりしません。自分がやったことを「いけないこと」ときちんと認識でき、自分のやったことの責任を取ろうとすることが出来る少年なのです。
そして彼が自分の人生をかけて救ったはずの親友(バンパイアに「悪魔」と呼ばれるような少年です!)が、今後の最大の敵として立ちはだかってくる予感で終わる、この『ダレン・シャン』。続きを読みたくないはずがありません。ダレン・シャンの生き方を見届けたくなる小説です。