『トムは真夜中の庭で』
フィリパ・ピアス (著), スーザン・アインツィヒ (イラスト), & 2 その他
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「時間」っていったい何だろう? 主人公のトムとともに、「時間」「記憶」「霊」などさまざまなことを深く考えさせられる物語です。謎を追いかけていく物語の展開も魅力的だし、情景がまざまざと目の前に広がっていく描写力も確かで、それだけでも読む価値のある傑作です。
(ここからネタバレがありますので、知りたくない方は読み飛ばしてください)
弟のピーターがハシカになったために、親戚の家に預けられることになって、ふてくされるトム。せっかくの楽しい夏休みなのに……。
退屈で眠れない真夜中、古い大邸宅の階下で、大時計が十三時の鐘を打ちます。
この大きな古時計は気難しい家主のバーソロミューおばあさんの物なのですが、時間は正確なのに、なぜか鐘の数だけはぜんぜんあてにできないのです。でも、……いくらでたらめな数を鳴らすといっても……十三回も鳴るでしょうか?
この世にありもしない時間、「あまり」の時間を鳴らす時計。

「しかし、そんなことがあるはずないよ。」とトムは声に出していった。
いままでふたりのやりとりをずっと黙ってきいていたらしい邸宅が、じれったくてしょうがないというふうにためいきをついた。

こうしてトムの真夜中の探検が始まります。大時計を見ようと、月明かりを入れるために開いた裏口のドアを開くと……そこには、花壇と広い芝生と、モミやイチイの木が茂り、大きな温室のある庭園が拡がっていました。
トムはそこを探検し、戻ってまた眠りましたが、朝になって裏口のドアを開くと、そこはまったく別の世界――古自動車やごみ箱のある狭い空地しかなかったのです!
真夜中に古時計が十三の鐘を打つ頃にしか現れない庭園……、トムはそこで、ちいさな少女ハティと出会います。
つまらない夏休みが、解き明かしたい謎とともに、どんどん過ぎていき、ちいさな少女は、夜毎に、どんどん成長していくようです。
トムは、ハティの服装を百科事典で調べ、彼女の話の内容から、ハティは過去の人間で、幽霊のような存在ではないかと疑います。
トムとハティがお互いを「幽霊」と言い合うシーンは傑作で、「幽霊」って何だろう?と考えさせられます。
「胡蝶の夢」を思い出させるこの物語は、本当は、どっちの夢の話なのでしょう。
そして交錯する過去と未来。……時間とは、いったいどんなものなのでしょう?
「時間」の問題の鍵となる大時計の中の天使の足の下には、「黙示録、第十章、一から六まで」の文字が書いてありました。

それから、海と地の上に立っているのをわたしが見たあの天使は、天に向けて片手をあげ、天とそのなかにあるもの、地とそのなかにあるもの、海とそのなかにあるものをつくり、世々限りなく生きておかれるかたをさして誓った。
「もう時間がない。」

十三時の鐘。十二時よりあとの時間は普通の時間ではない……。
トムは「時間」を自由にできるようにして、じぶんの「時間」をハティの「永遠」ととりかえることを考えます。
トムは世界のはてまで、「時間」のはてまで、スケートですべっていけるでしょうか…… そして……
心が温まる納得のエンディングが待っています。
……読み終わった時、心の中にいろいろ未解決の難題は残りますが……実は、それこそがこの物語の一番素晴らしい点ではないでしょうか。