『はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー) 』
ミヒャエル・エンデ (著), 上田 真而子 (翻訳), 佐藤 真理子 (翻訳), & 1 その他
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本の中で繰り広げられる冒険ファンタジーです。
……え? それって、つまり冒険ファンタジーなんでしょ?と言いたくなると思いますが、学校の屋根裏で本を読んでいた少年が、なんと自ら本に入って冒険を繰り広げるのです(笑)。
物語は二部構成になっています。前半は、物語世界(ファンタージエン国)の中の主人公アトレーユの物語。そして後半は、現実の少年バスチアンが、本の世界に入り込んで紡ぎだすファンタジー。この二つの物語が絡み合って、「はてしない物語」を創り出します。
あの不思議な童話『モモ』の作者のエンデさんが、また素晴らしいファンタジーを贈ってくれました。この作品も、映画(『ネバーエンディング・ストーリー』)にもなった超人気ファンタジーです。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
学校でも家庭でも疎外感を感じている少年バスチアンは、雨の日に思いがけず立ち寄った古本屋で、あかがね色の本を目にします。その本はなぜか磁気のような力で、自分を魅きつけてきました。表紙に二匹の蛇が描かれています。一匹は明るく、一匹は暗く描かれ、それぞれ相手の尾を噛んで楕円につながっていました。そしてその円の中に、一風変わった飾り文字で題名が記されていました。
はてしない物語。
バスチアンはこの本がどうしても欲しくなり、服の下に隠してこっそり持ち去ってしまいます。そして学校の屋根裏部屋に隠れて、本を読みふけるのでした。
本の中の国のファンタージエン国は、正体不明の〈虚無〉におかされ滅亡寸前でした。統治者の女王・幼ごころの君は、原因不明の病に倒れていたのです。それを救うために、少年アトレーユは、女王から託されたアウリン(楕円につながった二匹の蛇が描かれた不思議なお守り)を身に着け、旅を始めます。
ファンタージエン国を救うには、人間界から子どもを連れてくる他はないようです。そして、その子はあかがね色の本を読んでいる10歳の少年……
ぼくのことだ!  そう叫んだとたん、バスチアンは本の中に吸いこまれていくのです。
アトレーユとバスチアン。彼らは、女王・幼ごころの君を、そしてファンタージエン国を救えるのでしょうか?
……というのがストーリー。
この本を原作とした映画『ネバーエンディング・ストーリー』を見ていたので、とくに前半のアトレーユの物語は、読み進めるとともに、あの美しい映像が甦ってきて、すごく楽しく読めました。
物語前半の最後に、アトレーユはついにバスチアンを見つけ出し、女王・幼ごころの君には新しい名前(月の子)が与えられます。
……なるほど。「そして新しい物語が始まる」のか……それで「はてしない物語」なのね、と単純に納得しましたが……後半のバスチアンの物語は、前半のアトレーユの物語以上に、深く示唆に富んでいて、いろいろなことを考えさせてくれます。前半のアトレーユが「陽」の蛇なら、後半のバスチアンは「陰」の蛇。両者は結び合って楕円を描くのです。
物語の後半になると、本の中に入りこんだバスチアンは、新しい物語を創りはじめます。さえない少年だったバスチアンは、この世界にはいません。バスチアンは最高の勇士にして最高の賢者。もう、なんでもありの世界です(笑)。
バスチアンはこの物語に深く入りこみ、スリリングな冒険で難題を解決していき、奇跡を起こしますが、その代償に現実世界の記憶を少しずつ失っていきます。バスチアンは、新しい物語を創りだしていき、その喜びと苦しみを味わいます。
この後半には、とても印象に残る文章が随所にあらわれてきます。
「賢いというのは、何事をも超越して、だれをも憎まず、だれをも愛さないことでございます」
「かれらのもとでは、一人一人の個人は問題ではないのだった。みなそっくり同じで区別がないのだから、かけがえのない個人はいないのだった。けれどもバスチアンは、一人の個人でありたかった。(中略)バスチアンは、最も偉大なものとか、最も強いものとか、最も賢いものでありたいとは、もはや思わなかった」
「「ぼく、みんなまちがったことをしてしまった」。バスチアンは、いった。「みんな考え違いをしていたんです」(中略)
アイゥオーラおばさまはバスチアンを長いこと見つめていたが、やがていった。「いいえ、わたしはそうは思わないわ。あなたは望みの道を歩いてきたの。(中略)そこへ通じる道なら、どれも、結局は正しい道だったのよ」」
心に響く言葉が、本当にたくさん散りばめられています……。
さて、この物語には、「それはまた別の物語」という文章がいくつか書いてあります。もしも、それが気になったら、あなた自身で、その「別の物語」を書いてみたら良いのではないでしょうか。そして実はそれこそが、エンデさんがこの『はてしない物語』にこめた真のメッセージなのだと思います。
アウリン(二匹の蛇の楕円のお守り)の裏には、次の短い文字がかかれています。
「汝の 欲することを なせ」