『ムギと王さま (ファージョン作品集 3)』
エリナー・ファージョン (著), エドワード・アーディゾーニ (イラスト), & 1 その他
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幻想ゆたかな現代のおとぎ話、国際アンデルセン賞作家の美しい自選短篇集で、作者が七十歳を過ぎてから、それまでに書いた子どもの話のうちから二十七編を選んだ記念すべき本です。ほとんどのお話が、読み終えた後に心がぽかぽかしてくる優しいものばかりです☆
なお、岩波少年文庫から同じタイトルの本が出ていますが、そちらはこの二十七編から表題作の他、「レモン色の子犬」「小さな仕立屋さん」「七ばんめの王女」などの十四編のみを選んで収録していて、残りの十三編は、岩波少年文庫の『天国を出ていく』に収録されています(二十七編の入ったこのハードカバーの方は、子供が読むには厚くて重すぎるので、二分冊にしたのでしょう)。
幼い日、本のぎっしりつまった古い小部屋で一日じゅう読みふけった本の思い出――それがエリナー・ファージョンに、幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となったそうです。この短編集はその真髄を感じさせるもので、寓話風のもの、子供を活き活き描いたリアルなもの、風刺をまじえた面白いもの、教訓が感じられる昔話風のものなど、とても多様なお話がごたまぜに集められていて、読んでいると、本がぎっしりつまった古い本棚から、きまぐれに小さい一冊を選び出しながら読みふけっているような感じがします。
なかでも印象的だったのは、「十円ぶん」という短編。学校帰りに十円玉を拾ったジョニーが、駅の自動販売機でチョコレートを買おうとしたのに切符が出てきてしまい、駅構内でちょっとした冒険を繰り広げるお話で、子どもらしい愉快な行動と、どきどきする心理がすごく活き活きと描かれていて、これを書いた時にはすでに中年過ぎのはずの作者の、みずみずしい感性に驚かされます。
ほらあなのような駅の階段を駆け抜けながら、大声で「1! 2! 3!……」というと、その声がすこしたってから、みょうなちがった声になってもどってくるという場面では、その声の響きとともに、自分も童心に戻って、ジョニーのちょっとびくびくしながらも、不思議な驚きを楽しんでいる心臓の鼓動まで感じることができました(笑)。
また「ねんねこはおどる」という短編では、少し認知症が入ってきている百十歳のおばあさんが、本当にそこにいて話をしているように描かれていて、作者の人間観察のすごさに感心してしまいました。
埃っぽい本棚部屋でも、こんなお話ばかりの本を引き出して読み始めたら、目がいたくなるまで読んでしまうのも不思議はありませんね(笑)。
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ファージョンさんの作品集は、全7巻がでていて、この本はその3です。また岩波少年文庫からは、この本を『ムギと王さま』、『天国を出ていく』の二冊に分けたものが出ています。
ファージョンさんの作品集(全7巻)は以下の通りです。
『1 年とったばあやのお話かご』
『2 イタリアののぞきめがね』
『3 ムギと王さま』
『4 リンゴ畑のマーティン・ピピン』
『5 ひなぎく野のマーティン・ピピン』
『6 銀のシギ』
『7 ガラスのくつ』