『だます心 だまされる心 (岩波新書) 』
安斎 育郎 (著)
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「だまし」について多角的にとりあげ、手品などの楽しい「だまし」から、振り込め詐欺などの被害を及ぼす「だまし」まで幅広く解説してくれる本です。さまざまな「だまし」のテクニックや狙いを紹介しながら、だまされないためには、どんな姿勢が必要なのかを教えてくれます。
実は、タイトルを見て、「詐欺師にだまされないための心得」のようなものが中心なのだと勝手に期待していたのですが、「だまされる」こと全般について解説した本でした。全7章のうち、「どうすればだまされないか?」については、最後の7章になって、ようやく教えてくれます(汗)。とは言っても、それまでの6章で、「だまされる心理」について、とても多角的に考察されているので、「だまされる」のは、どうしてか、とても納得できるようになると思います。
最初は「1 トリック」で手品などの不思議な現象にはタネがあることを教えてくれ、続いて、「2 文学・芸術の中の「だまし」」で、推理小説や川柳、だまし絵など、文学・芸術的な楽しむ「だまし」と続きます。さらに「3 霊やカリスマの世界」、「4 科学者もだまされる」、「5 実生活にひそむだまし」、「6 だましの社会現象(政策誘導のための「だまし」)」、「7 どうすればだまされないか?」と、「だまし」被害にあわないための心構えまで教えてくれます。
ちょっと背筋が寒くなったのは、「4 科学者もだまされる」の著名な物理学者・長岡半太郎さんのケースで、52歳の時に「水銀を金に変える実験に成功した」と発表したという話。まさしく現代の錬金術のような感じですが、彼は「水銀の原子核から陽子をたたきだす」ことで実現可能と考えたようです。が、その後、十数年にわたって研究を継続したものの、結局は不可能だったそうで……つまり結果的には、「錯誤」ということになったようですが、実際にその時代に当事者として関わったら、「錯誤しているかどうか」は本人にも分からなかったのではないでしょうか。科学は、さまざまな錯誤と検証を通して発展してきたのですから……。どの段階で、「錯誤」と判断したらいいのか……「運・不運」の面もありそうな気がします(汗)。
それはともかく、有名な科学者ですら「だまされる」ことがあるということは、人間は誰でも、だまされる可能性があるということでしょう。
著者の安斎さんは、「どのような価値観をもつにせよ、1.権威にひざまずいて判断の主体性を放棄するような生き方は危険だということ、2.「客観的命題」に対しては「好き嫌い」で判断するのではなく、徹底的に合理的思考を貫く努力が大切であること、そして3.そのためには「健全な懐疑論者」であることが非常に重要である」と考えているようです。 とても妥当な考えではないかと感じました。
そして本書の最後の章「7 どうすればだまされないか?」では、悪徳商法のさまざまな形態や、振り込め詐欺が「午前11時ごろから午後2時ごろが多発時間帯」であることなど、だましの手口について、とても具体的に教えてくれます。
「だます」人の手口は、どんどん変化し進化するので、「絶対にだまされない」防御策はないのかもしれません(汗)が、この本を読んで、人の「だます心・だまされる心」や「こんなだましの事例があった」ことを知ることで、自分が「だまされているかもしれない」ことに気づく可能性を大きくでき、結果として、だまされる被害を少なくすることが出来るのではないかと思います。