『ごんぎつね』
新美 南吉 (著), 黒井 健 (イラスト)
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貧しい男(兵十)がとったウナギを、いたずら心から奪ってしまった狐のごんの物語。新美南吉さんの代表作の一つなので、子供の頃に読んだ方も多いと思います。
(※ここから先は、物語の核心にふれるネタバレを含みますので、結末を知りたくない方は読み飛ばしてください)
子供の頃、このお話を初めて読んだとき、「ああ、しまった!」と思いました。貧しい兵十が病気の母親のためにとったウナギを、狐のごんが、つい、いたずら心から奪ってしまい、その後、母親は病気で亡くなってしまうのですが、ラストシーンで、涙がぽろぽろ零れ落ち、あまりにも悲しすぎて、「どうして、こんな本を読んでしまったんだろう……」と、ひどく悔やんでしまったほどです。
それから何度も、「いったい、ごんは、どうするべきだったんだろう?」と考えましたが、いまだに答えを見いだせずにいます。「いたずらをすべきでなかった」と言うのは簡単ですが、子供はいたずらをするものですし、いたずらしながら成長していくものです。いたずらをまったくさせないようにして成長させるのは、むしろ精神的によくないような気がします。それに、ごんには、それほど悪気はなかったのです……。
子供の頃は、悲しすぎて、「どうしてこんな物語を書く人がいるんだろう」と憎らしくさえ感じてしまっていたのですが、大人になって、ようやくこの物語の珠玉の価値を理解できるようになりました。
この物語は、子供の心に、かけがえのない経験をさせてくれます。
悪気のない、いたずらが、とんでもない結果を生んでしまうことがあること。
良かれと思ってやったことでも、相手を逆に傷つけてしまうことがあること。
口に出せずにいると、相手に誠意や思いが伝わらないこと。
思い違いをしたまま報復すると、取り返しのつかないことになることがあること――。
これらのことは、普段の生活では、幸いにも、なかなか経験できないことですが、「世の中には、こういうこともあるんだ」と子供の頃に知っておくことは、その後の精神的成長を、より健全な方向へ導いてくれるような気がします。
ここで紹介するために、しばらくぶりに読み直したのですが、兵十の母親の葬儀で、ごんが考えた内容のところで、また涙がでました。誰に咎められたわけでもなく、それどころか示唆さえされていないのに、ごんは自ら兵十の気持ちを推し量って、反省していたのです。
そして、火縄銃から青い煙が細く出ている印象的なラストシーン。子供の頃は、ごんがひたすらかわいそうでなりませんでしたが、今読み直すと、ごんは実は救われていたんだなあ、と感じます。
それから、できれば兵十もまた、救われてくれれば良いなと思います。この後、兵十にお嫁さんが来て子供が出来て、その子に「ごん」の物語を聞かせてあげて欲しい。この物語を聞いて育った子には、きっと「思いやり」の心が根づくことでしょう。